[コメント] フィスト(1978/米)
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『ロッキー』で突如時代の寵児となり、アメリカン・ドリームを実現したスタローン。そのお陰で彼には何本もの主演作のオファーが舞い込んできたのだが、敢えてそれを断り、スタローン自身が脚本も関わり、しかも歴史作品に定評のあるジュイソン監督をいわば逆指名して作り上げた作品。
「FIST」という言葉の意味を調べてみると「握り拳」「殴る」等の意味と共に「指標」という意味もあって、このタイトルに込められた思いというものを考えさせられるのだが、この場合のFISTとは、やはり団結の印と、あくまで我々は退かない。と言う意味合いを持った、上に突き上げる拳のことだろう。下から突き上げ天を指す。本作のメインテーマとなる労働組合にはぴったりのタイトルだ。
アメリカの場合は組合の歴史が長いこともあってか、日本や東欧映画のようにプロパガンダとして見るのではなく、あくまで人間の組織として捕らえている節があり、その分冷静にその内部を切り込んでいる作品ばかり。特に本作は、企業の腐敗を糾弾する立場にある組合自体が腐敗していることをきちんと説明しているのが非常に興味深い。組合が企業に癒着したり、あるいは自己的に利益を追求するようになるのは、実際なり得る話でリアリティがあることを改めて感じさせてくれる。そう言えば2008年のサブサプライム問題で、アメリカでは組合が足を引っ張ったため立ち直りが遅れているとも言われているが、ある意味これも又、組合の持つ悪い一面であるのかもしれない。
と、本作は色々考えさせられる設定に溢れているが、ちょっと驚いたのは、この脚本を書いたのがスタローン本人だということ。一見筋肉バカに見えていながら、しっかり深いところを考えてたんだな。
さらに、スタローンは演技面においては決して洗練されておらず、大変野暮ったのだが、作り手になると面白い才能を発揮する人でもあることが示されている。『ロッキー』であれ、本作であれ、自分のために脚本を書いているようだが、そのどちらも木訥で基本善人。おだてられやすいと言うところで共通点があり、スタローン自身が、自分自身をよく観察していることが分かる。他の人が監督がスタローンを描くならば、ヒーローっぽく仕上げられるのに、本人が書いてみると、そう言った洗練さからは離れているのが面白い。自分自身をよく知っているからこそ出来た描写なのだろう。
ここでスタローン演じるジョニーは、大きな事は考えられない人物。彼が考えられるのは、自分の明日の仕事のことであり、好きな女性をどうやって口説くか、あるいは身内に困った人がいたら、それを助けたいと思う、そんなレベルの人物だった。こういう人間は月並みの生活が確保されれば、それだけで幸せに一生を送れるタイプの善人に過ぎない。
ただ、度胸と、人を動かすアジテイターとしての才能があったばかりに、その道は大きく外れることになった。ジョニーにとっては組合の組織問題など頭にはないだろう。自分を認めてくれる場所がここにあるから、そのために働くのだ。と言う考えしかないのだが、必要以上に一本気な性格と、おだてられるとついその気になってしまう性格が災いする。結果としてこの才能は自分のためにはならず、もっと大きな組織の人を一方的に利することとなり、不必要となったら容赦なく切られてしまう。
大きなことができない善人が必要以上の力を持ってしまったら、その先に待つのは自滅だけ。本作のジョニーをさらにリファインしたものが『ロッキー2』(1979)のロッキーの姿になっていったのだろうが、これは同時に一躍スター俳優になってしまったスタローンの自戒が入っているようにも思える。
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