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[コメント] ソルジャー・ストーリー(1984/米)

人種差別が黒人の精神にもたらした悲劇。
らむたら

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







白人が黒人を差別する人種差別が、化学変化のようにある黒人の精神を変容させた。映画開始時点以前の差別がより過酷だった時代に黒人兵士として辛酸を舐め、そして自力で白人に己の兵士としての能力を証明して下士官へと昇進した叩き上げの軍曹の中には白人に対する確たる反骨心と独立不羈の精神が存在している。と同時に彼は過去において白人の差別に屈して媚び諂うだけの腑抜けや家庭や教育の環境によって先天的に近い形で白人に対する劣等感を植え付けられてしまい後天的に除去不可能になってしまった数多くの精神的な奴隷を戦場だけでなく日々の生活の中で目の当たりにしたのだろう。己の独立不羈の精神と照らし合わせ、彼らの自堕落な生活習慣、事大主義的な思考習慣、無軌道で向上心のないていたらくに激しい憤りを感じていたのだろう。その結果、自ら黒人としてのプライドを一身に背負う殉教者的な悲壮感を感じつつ模範たらんと欲し、しかしその試みも陽気だけどだらしない、力強いけど教育のない“黒人らしさ”の前に失笑を買うだけでなくあからさまな侮蔑すら時に暴力も伴ってもたらされたのだろう。ここに至って向上心溢れる進歩的な黒人たる自分と向上心のない旧態依然の黒人たちの間の埋められない深い溝を痛感し、常に上方に向けられていた誇り高き精神活動が擱座すると同時に社会の底辺で享楽的に生き晒している黒人たちへの屈折した怒りと軽蔑へと変容してしまったのだろう。彼の狷介な性格はもちろん先天的な部分も多分にあるだろうけど、差別の圧力のもとで後天的に形成されていったのが主な要因であると思われる。思われるというより、思いたい。それが単なる白人による黒人の侮蔑という典型的な人種差別よりも根深く巣食う悲劇といえるのではないだろうか? 意識において進歩的な黒人の中に生まれる“奴隷”たちへのどす黒い差別意識。それは時に白人の黒人に対するものよりも一層本質的な悲劇といいえるのではないだろうか?

それでは確かに綺麗事すぎる。故に軍曹は小柄な俳優が演じ、野卑で厭味ったらしい性格を付与されており、観客の苛立ちや憤りを煽ることはあっても同情されることはないと思われる。つまるところ軍曹の殺人事件に窺われる社会的な悲劇性を軍曹の個人としての魅力のなさによって微妙に中和していると思う。しかしそれでも確かに綺麗事すぎる、のだ。そもそも上のパラグラフで書いたような履歴に似たものを軍曹は経ていたかもしれないが、上に書いたような意識的な高潔さがあったと考えるのは、裏読みが暴走するという僕の悪いくせにすぎないのかもしれない。ただそうでないと「軍曹の殺人事件は白人による人種差別に基づくものと思われていたが、実は黒人の怨恨によるものだった」という紋切り型の陳腐な社会性しか導き出されなくなってしまう。ま、それでもいいのかもしれないが。ただそういった紋切り型の通俗的な社会問題を掘り下げて本質に近づける可能性が批評眼を洗練することによって垣間見れるのなら、あるいは監督を始めとする製作者サイドに観客に挑戦するかのような仄めかしでカマをかけてくるのなら、僕としては独善の誹りを受けてもより本質に近づきたい、と思ってる。製作者の意図を逸脱するのではなく、製作者の無意識の領域を切り開いて独自の批評を展開してみたいと思うのだ。

と新進気鋭の評論家の抱負のようなことを熱っぽく書いてしまったが、筆の勢いに任せた感が強く、自分でもその内容に対して半信半疑で、しかも責任をもつ自信すらない。要するに僕は書くことでストレスを発散しいるわけで、文章を紡ぎだすことに淡い快感を覚えてしまってるようだ。自己陶酔はほどほどにするように注意しまっさ。

(評価:★3)

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