[コメント] 蜘蛛の巣を払う女(2018/英=独=スウェーデン=カナダ=米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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原作を読まずに観るか、原作を読んでから観るか。どちらが良いかは様々な解釈がある。実際1作目の『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)は原作未読で観て、面白かったので原作を一気読みしたことから、原作の紹介として映画を観るというのもありだろうし、2作目以降は原作を読んだ後で映画観たお陰で、細かいところまで脳内補完して観ることが出来た。このシリーズはどちらも楽しい。
それで本作はギリギリで原作読めたお陰で、記憶が薄れないうちに映画を観るという実に楽しい時を過ごすことが出来た。
それで言うと、本作は非常にアンバランスな作品だったと言ってしまおう。
映画としては良作。だが原作の映画化としては最悪である。
原作はほとんどアクションシーンはない。あるとすればリスベットが自閉症の少年アウグストを連れて逃げるところくらいだし、二人の主人公リスベットとミカエルの接触シーンもほとんど無い。そもそも群像劇として描かれているため、途中で死ぬ人も含めて主人公が複数存在するので、リスベットのために割かれた紙面はそう多くない。
そんな原作の設定だけを使って、リスベットメインでカミラという双子の姉妹の戦いを中心にしたアクション作品として仕上げたのが本作となる。本作で展開するアクションシーンのほとんどは原作にないものだ。
でもその割り切りがあったからこそ、単体の映画としての完成度が上がっているのが面白い。正直、原作読んだ時には「これどうやって映画にするんだ?」とか思ってたもので、まさかこんな良質なアクション作品に仕上がるとは思ってもみなかった。
ただ、原作は充分面白いサスペンス作品なので、こちらを丁寧に映画化して欲しかったという思いもあり。
映画単体で見る限り、本作の作りはとても良い。リスベットを主役にスパイものを作ってみたといった感じなのだが、リスベットは元々一匹狼のような立ち位置にあるので、サポートするバックグラウンドが無く、ほぼ徒手空拳で巨大な組織にぶつかる必要がある。そこで数少ない仲間とか、同じ目的を持つ人を巻き込んで、なんとか立ち向かおうとする。少ない持ちパイを使ってなんとか勝利をもぎ取ろうとする物語がなんとも心地良い。自分の命をかけたチェス(ただし自分自身の命はキングではなくクィーン)やってるようで、詰め将棋を眺めてる気分。この感覚は前にもあったと思ったら、『ボーン・アイデンティティー』(2002)がまさにそれで、見事にその後継作品として機能している。
この作りで続編が作られていったら、すごく面白いシリーズになりそうだ。
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