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[コメント] ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!(2020/米)

閉塞感のある時代だからこその展開。ちゃんと今の物語になってる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 『ビルとテッドの大冒険』(1989)、『ビルとテッドの地獄旅行』(1991)に続くシリーズ三作目。しかし年代を見れば分かるとおり、二作目からなんと30年ぶりの続編である。よくぞここまで企画を持ち続けたものだ。

 この間に(『ミュータント・フリークス』(1993)という共演作があったが)リーヴスは数々の当たり役をものにし、ハリウッドを代表する俳優の一人になっていた。ただ本人はこのシリーズに思い入れが強かったようで、本作もリーヴス本人が希望していたから実現したとのこと。それが叶ったことは何より。

 1作目、2作目を経て、30年が経過しての本作の特徴は、初めて“危機感”を演出したことだろう。先の二作は基本的に脳天気な二人が好き放題やるだけで物語が進んでいたが、二人は中年になっても音楽から離れることもなく、売れなくなってもあがき続ける。日常そのものがプレッシャーになってしまった。お陰で完全に中年男の悲哀の話になってしまったが、実はそれが本作の一番の味とも言える。切実感が違うし、何をして良いのか分からないけど、とにかくがむしゃらにあがく姿がリアルでよろしい。世界を救う曲を探しに未来へ未来へと向かって、そこにいる自分と合うが、未来の自分たちも全て迷走しっぱなしで、数年のスパンで全く違った姿になってるのがなんとも笑える。リアルというか、一作目当時と今の自分自身の姿の変化を考えると、身に迫ったリアリティを感じてしんみりしてしまう。

 とはいえ、基本はコメディであり、父親が動けない分、二人の娘達が頑張ってる。彼女たちがいろんな時間軸に行って連れてきた音楽家たちがセッションを起こすことで物語は佳境に入る。この二人のポジティブシンキングさはまさにかつてのビルとテッドと同じで、ここだけ旧作っぽさが出て微笑ましいのだが、彼女たちがやっていることは父達がやっていたことと質的に違う。

 父親達がやっていたことは、基本的に自分たちのためであり、世界が狭かったのだ。ビルとテッドの二人が音楽を続ければ世界は救われる。だから自分たちだけを見ていれば良かった。しかし今回は世界を救うための明確な活動で、自分の問題ではない。むしろ父親のしていることの遥かに上の次元で活動していた。

 結局その二人に感化される形でビルとテッドが世界を救う音楽を見いだすことが本作の肝である。

 一作目、二作目を通して明かされず、本作を通して求めていた本物の音楽とは何か。

 それは全ての時代全ての人物によるセッションだった。音を出せる人は全員音楽を奏で、それが出来ない人は声援で応える。時間を越えて全ての人が行うこと。その中心にいるのがビルとテッドだったということだ。

 意外なオチだったが、同時に見事なオチでもあった。これぞSFマインド。

 それにこれって80年代の音楽シーンを知ってる人にとってはとても懐かしく、共感できるものでもある。

 そう。私達は1984年のバンド・エイド。1985年のライヴエイド(『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)でそのステージが再現される)、USAフォーアフリカによる「We are The World」を知っている世代。そこで「世界は一つ」というスローガンに感動した世代でもある。

 この世代の人間にはこれは心まで響く。

 今の時代にこれをよく作った!というか、今の時代だからこそこれが重要なんだ。

 ストーリーの荒唐無稽さや矛盾やどうしようもなさを全部越えて、ラストシーンはマジで心が震えた気がした。

 あのラストシーンを見せてくれた。正直これだけで本作は充分である。

(評価:★4)

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