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[コメント] ワンダーウーマン 1984(2020/米)

消費文化が極限まで言ったらどうなるかのシミュレーション。1984年という題材はぴったり。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 『ワンダーウーマン』(2017)のスマッシュヒットを受け、同じ監督主演で送る続編。本来ならばもっと早く公開されるはずの作品だったが、新型コロナウイルスの世界的な蔓延によって公開が引き延ばされ、当初予定されていた公開時期が大幅にずれ込んで2020年の年末公開になってしまった。

 女だけの島セミッシラからやってきたワンダーウーマンが悪人をなぎ倒すという基本路線は前作を踏襲しているが、前作とは質的には随分違う。

 前作の時代は第一次世界大戦下だった。この時代の男女の性の格差は激しく、その中で女性として前戦で戦う女性という明確なテーマがあった。これは過去こう言う時代があったということだけでない。今もやはり格差があるということをほのめかすことで現代の陸続きを感じさせ、作品に奥行きを持たせた。

 対して本作の時代はどうかと言うと、1984年。先進国の消費文化の頂点の時代である。戦争の恐ろしさは過去に。ものがあふれかえる時代を(金を持つ人は)謳歌していた。日本でもバブルが始まった時代で、リッチな生活への憧れと、それに手が届く幻想をもたらしていた時代となる。一作目とは何もかも違う。

 演出においても一作目の画像は全般的にかなりくすんで色調を押さえたものだった。まるでモノクロ映像のようだ。一方本作は色調がかなり鮮明で、まるで80年代のテクニカラー時代を思わせる色調になり、色彩に合わせるように物語も明るく仕上がってる。

 これが現代とどう結びつくのかというと、行き過ぎた全能感と欲望を肯定する時代を舞台にすることによって、現代アメリカの置かれている状況と言うものを端的に示したものとなっているのだ。

 全能感と欲望肯定とは、2017年に大統領に就任したトランプの存在なしに語る事は出来ない。これまで豊かな国に生まれた自分たちだからこそ節度が重要だとして、率先してポリティカル・コレクトネスを推進していたアメリカが、自らを縛る常識に窮屈さに反発したことが一つの原因だろうと思うのだが、そういう人の代表となったのがトランプ大統領という存在だった。

 彼の主張するアメリカ・ファーストは耳障りが良い言葉で、アメリカ国民は、もはや節制を誇らず、持っているものを存分に味わうべきだとした。欲望を肯定することによって国民の信頼を勝ち得たのがトランプという存在なのだ。

 アメリカ人として生まれたからには欲望を解放せよ。その負債は他の国が負ってくれるとした主張は国民にはよく聞こえるのだが、実際に欲望を解放したらどうなるか?その部分を強調して描いたのが本作である。

 ラストの狂乱部分は決して誇張ではない。人が節制を捨てて欲望を解放したら、地球はその思いを受け止めきれずに崩壊する。当然の話である。トランプ大統領が言っていることは、まさしくアメリカ人の欲望を肯定することだった。本作は見事な現政権に対するアンチテーゼとなっているのだ。

 前作同様本作も、過去を描くことによって今の世相を斬るような内容になっている。

 その部分は大変面白いし評価したい。それに欲望肯定によって、前作で死んだはずのスティーヴが復活したこともちゃんと物語に織り込んで展開もする。

 それを踏まえて言うなら、ストーリーの弱さが際立つ。ひねりがなさ過ぎるため、物語全般が平板になってしまい、プログラムピクチャー的になってしまった。こうなるしかない結論に向かって粛々と物語が進んでいるような感じで、あっさりしすぎの感あり。なんか『スーパーマン II 冒険篇』(1981)を今の時代の演出で作った感じか?

 それこそ80年代の作品じゃないのだから、もう少し脚本を詰めても良かったんじゃないかな?

 充分に面白い作品ではあるが、もう一踏ん張り欲しかった。

(評価:★3)

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