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[コメント] きさらぎ駅(2022/日)

上手い具合に捻った作品で、低予算ホラーも馬鹿に出来ないことを改めて思わせてくれた。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かつて2ちゃんねるの実況板から始まり、リアルタイムで怪談を体験した風に書き込まれ、一気に広まったという“きさらぎ駅”。その後、検証などもあったり、他のアニメや小説などにも単語が登場したりと、今も尚時折目にする新しい怪談話を元に映画化した。

 インターネットによって流布される新しい怪談や伝統などは、netとfolkloreを合わせた「ネットロア」と呼ばれ、かなり多くの新しい怪談話がネットでは展開している。清水崇が作ってスマッシュヒットを取った『犬鳴村』(2019)のシリーズなどもネットロアをベースにしている。そんなネットロアの中でも相当メジャーな部類に入る“きさらぎ駅”の映画となる。

 そういうのは得てしていい加減に作られるものが多い。本作も最もオーソドックスな作り方ならば、きさらぎ駅で起こった事実をホラー描写で淡々と描くだけで、最後は主人公が脱出するか、それとも失敗するか程度の違いを作るという話になるだろう。その場合、ラストシーン以外は大概同じ作品になってしまう。

 しかし本作は敢えて“きさらぎ駅”の特性をちゃんと捉えた。

 “きさらぎ駅”の持つ特殊性の一つは、再現性ということになるだろう。元が匿名掲示板の書き込みによるものなので、誰が書いたのか分からないのが一つの特徴だが、匿名である事を上手く使い、「私もきさらぎ駅に行ってきた」という書き込みもあり得る。そのように行った人たちは、オリジナル版を補強し、同じ事が起こっていることを語るようになっていく。つまり何度誰がきさらぎ駅に行っても同じ現象が起こると言う事になる。

 この再現性に目をつけたのが上手い。

 映画では、実際にきさらぎ駅に行って脱出できた人物の聞き込みから始まり、どうすれば脱出できるかを知った上で、もうちょっと何か出来るのではないかという観点から再現している。結果として出来る事もあれば、出来ない事もある。主人公の反応によって少しだけ世界が変わる。その変化を描写することでひと味変わったホラー作品に仕上げることが出来た。

 観たからこそ言えることだが、その発想を思い至った時点で本作は成功だったと言える。

(評価:★3)

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