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[コメント] 浜辺の女(1946/米)

妄執
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







妄執、この言葉を辞書を引くように描いた作品です.

妄執を辞書で引くと、 迷った心で、物事に深く執着すること. 迷った心で、物事に深くとらわれること.

迷うを念のため国語辞典でひくと、 (1)道がわからなくなる(自分が分からなくなる) (2)あれこれと思いなやみ、決断がつかなくなる (3)まぎれこむ(これは関係なさそう) (4)誘惑などに心をまどわす

バーネット中尉.彼は海難事故の悪夢に取り付かれている.迷った心で物事に深くとらわれている、と言ってよく、その恐怖から逃れたい一心で、恋人のイブとの結婚を急ぐのだけど、浜辺で出会ったペギーの誘惑に心を惑わす.結婚を約束したイブとペギーの関係、ペギーの怪しい魅力に取り付かれて、バトラーへの不信から崖へ誘い出す出来事など、ペギーとの出会いは、彼にとって妄執をより深めていったと言ってよい.

浜辺の女、ペギー.自分の過失により夫を失明させた良心の呵責に苦しみながらも、辺ぴな片田舎で暮らす寂しさから、若い男を誘惑する.良心の呵責から逃れることができない分、なおさら女として自由を求める心の迷いも深い.やはり妄執と言ってよいのでしょう.

画家のバトラー.絵への未練、妻に対する束縛、どちらにも深い執着があり、妻の肖像画を自分の一番の傑作として持ち続けている.

バーネットは幽霊が怖い.ペギーは自分を娼婦だという.画家のバトラーもまた、失明した画家の苦しみを、自ら認めることになった.三人三様の妄執、不可解な意味合いを含む会話、その会話を通して互いに互いの腹の中を探り合いながらも、次第に皆が本心をさらけ出して行った.確かにその本心はバトラーがペギーに言ったように、腐った心であったかもしれないけれど.

ペギーに対する愛の争い、バーネットとバトラーは自分の本心をさらけ出し、釣りに出かけた小舟の上で対決する. 「彼女を自由にしろ」「あの女は、自分以外は愛せない」 バーネットは銛で舟底に穴を開け、船を沈めてバトラーと共に死ぬ覚悟をしていた.ペギーと一緒になりたいからバドラーを殺すのではなく、ペギーを単に自由にしたい、それだけの想いからの決断だった.

自分もおぼれ死ぬ覚悟のこの行為は、結果的にバーネット自身が海難事故の恐怖から逃れることになり、同時にバーネットのペギーへの想いが、バトラーに対して、妻への執着を解き、絵への未練も捨てさせて、新しい人生を歩むことを決断させた.

妄執とは、迷った心で、物事に深く執着すること.それから逃れるには、諦めて決断すればよい. バーネットはペギーへの愛から、人生を諦めバドラーと共に死ぬことを決断した.その結果は先に書いたとおり、描かれたとおり.

妄執、この言葉を私は知らなかった.難しい言葉かもしれないけれど、ものすごく分かりやすく描かれているのね.

(評価:★5)

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