[コメント] 邪魔者は殺せ(1947/英)
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『第三の男』(1949)前のリード監督の代表作と言われた作品。たった一夜の出来事が描かれる話だが、確かにたった一夜。だけど大変濃密な時間が描かれる。人間の存在価値とは一体何であるのか。その事を問いかけた作品と言っても良いだろう。
主人公のメイソン演じるジョニーは、カリスマ的指導者であり、自分を愛する女性のことよりも党の事を優先し、指導者としては立派な存在だが、その肩書きが剥ぎ取られ、ただの怪我をした一個の人間になった時、本当に大切なものは政治ではない。ということに気付いていくという形式。しかもこれを8時間という時間に凝縮することによって濃密な時間を作り出している。
設定がとても良い作品なのだが、実はむしろ本作は設定よりも演出の良さで語るべき作品だろう。リード監督作品だと『第三の男』の夜の描写は際だっていたが、それに先行する本作も同じくよく夜が描けている。影の使い方と、そこに現れる人のシルエットの使い方が実に上手いのだ。それを徐々に力が弱っていく男の目から見ているため、最初で見せる夜の演出と、中盤の演出が全く変わって見える。
具体的には最初は夜というのはジョニーの味方で、暗闇に乗じたアクションが、そして力が弱った時、闇は孤独を象徴させるものとなる。その中で様々な人間と出会い、闇は徐々に深く、その分人の情が増していく。そして最後にキャサリンは、光をバックに、まさに希望として描かれる。影の使い方が際だった巧さとなってる。ラストの皮肉さ加減も又良し。果たしてこの終わり方は悲劇か?喜劇か?それともハッピーエンドなのか…不思議な余韻を残す作品である。
ただ、ちょっと気になるのは一応IRAの闘士が描かれてはいるが、政治的要素が全然感じられないと言う所か。最後がメロドラマになってしまうのもなあ。
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