[コメント] ハリーの災難(1956/米)
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原題『The Trouble with Harry』。なんとも人を食った題である。
本編主人公は間違いなくハリーであり、そのハリーが出会う不幸の数々が描かれているので、確かにタイトルに間違いはない。ただし、その主人公は何も喋ることも行動することもない。ただ甘んじて災難を受け取るしかない。至近距離で銃を撃たれたり、牛乳瓶で殴られたり、泥棒に靴を取られたり、何度も地中に埋められては掘り返されるを繰り返したり…多分映画史上における最も不運な主人公の一人には違いあるまい。
ただ、一つ問題があるとすれば、この主人公は喋られないのではなく、喋る事自体できないと言うこと。要は死体は何をやられても怒ることは出来ない。
この発想の面白さが本作は全編を覆っており、本来あり得ないはずの「誰が殺したのか分からない」状態の死体を前に右往左往する人間達の姿がコミカルに描かれている。設定は確かに無茶苦茶なものに違いない。
ヒッチコック監督自身の『ロープ』(1948)同様単一の発想で持って行った話となるが、この場合長編にしようとは普通考えないようなネタ。こんな小ネタを長編に持って行こうとする発想が監督の凄い所だが、これをきちっと長編で楽しませるのが監督の偉大さ。普通だったら30分くらいでネタが尽きてしまい、後はだらだら続くしかないはずなのだが、監督が作ると会話とサスペンス仕立てで展開が二転三転。最後まで全然飽きさせることがなかった。
ヒッチコックの才能は多岐に渡るが、どんな小ネタでも決して観る人を飽きさせないように作る…いや、それがどんな小ネタであったとしても、それを標準以上の作品に作ってしまえるというところが良い。本作はそれが端的に表された作品と言っても良かろう。
尚、本作はシャーリー=マクレーンのデビュー作だが、そもそも偶然舞台を見に来たヒッチコックが踊っているマクレーンに目を留めたと言う。これも俳優の掘り出しにも定評のあるヒッチコックの面目躍如と言った所か。
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