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[コメント] π〈パイ〉(1998/米)

気持ちが相当に若くないと、こんな恥ずかしい作品は作れません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 徹底的な低予算で作られた作品で、2000年代に作られたと言うにしては随分画も粗いし、設定に至っては独りよがりで(いわゆる中二病と言う奴)、物語も訳が分からないまま終わる。演出においても、不必要に気持ち悪がせるばかりで終わる。

 …普通考えると、これは最低点を付けたくもなるのだが、本作には不思議な魅力がある。

 画面は全体的に暗く、出てくる会話もやや意味不明。更に密室のみで展開していくくせに話はいつの間にか世界規模になっていくという、あたかも中二病そのもののような物語で、一般的な意味ではお勧め出来ないが、中二病の卵の殻をくっつけてる人間にとっては大変楽しめる作品に仕上げられてる。

 ただ、これだけではプライベートフィルムで終わる。本作が映画として成立しているのは、それ以外にも、映像的な挑戦があるからと思う。

 それで改めて考えてみるに、本作は初期のカサヴェテス作品や、例えば塚本晋也監督の『鉄男 TETSUO』(1989)に通じるものを感じる事が出来る。

 ニューヨーク派の創始者カサヴェテス監督は、映画のあり方そのものを変えたと言われるが、その一つの理由として、「カメラの背後を演出した」事が挙げられよう。演技者や演出ではない。見えない監督自身が実は映画の中心だと言うことを端的に示してくれた。画面に見えないものをいかに入れるか。監督自身の思いを画面にいかに封じ込めるかを実験的に行っていた。

 本作の場合、ほとんどカメラはたった一人の人物の行動を追うだけに終始するのだが、そこでのモノローグも会話も、まるでカメラのこちら側に向かって喋りかけているようだった。いや、実際それこそが本作の最大の演出部分じゃないのか?主人公は監督の分身であるとともに、監督自身に向かって語りかけてくる。そう言ったメタフィクションを指向した作品なんじゃないかと思える。

 結果として頭でっかちの若い監督にしか作れない作品になってしまったのだが、それをきちんと映画として成立させたと言うだけで評価して良い作品だろう。 

(評価:★3)

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