[コメント] 死刑台のエレベーター(1957/仏)
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若干25歳の若さで登場した新人監督ルイ=マルのデビュー作であり、推理作家ノエル=カレフの原作を元にほぼ自己資金のみで製作した作品。
これを若干25歳が?と思えるほどに完成度が高い作品。ルイ=マル監督の名前を一気に高めたのみならず、どんな実績のない新人でも、才能と資金さえあれば素晴らしい映画を作ることが出来るという希望を与え、ヌーヴェル・ヴァーグが生まれる追い風となった。映画史に残る重要な作品である。
とにかく突出して演出が凄い作品なのだが、先ず驚かせられるのはカメラアングルの見事さ。映画史において、これまでも色々な手法が試みられていたが、当時の映画ではまだまだカメラは動かさず、人の演技に全てを負っていた部分が大きかった。それに対し、この作品は縦横無尽にカメラは配置を変え、人や物の映し方を変える。エレベーターを下から映したり、エレベーターの中からアングルが取られているのには、今でも驚かされるくらいだ。人物に至っても、特に孤独を表すアングルが本当に見事。カメラアングルに関して、これだけ自由に撮りたいように撮って、しかもきちっとはまってるという才能を評価したい。
もう一つ特出すべきはラストの印画紙の用い方。これが結局ジュリアンとフロランスの犯罪をばらしてしまうことになるのだが、定着液の中で徐々に定着していく写真。そしてそれで明らかになっていく事実…幸せそうな一瞬を映し出した写真が、今度は焼けこげていく。その過程を克明に映し撮った演出は感動に近い。
それと音楽についても特筆すべきだろう。本作はマイルス=デイヴィスによるジャズナンバーで彩られているが、ジャズがこれだけ映画にはまるというのを実証する結果となった。はまりすぎるほどのはまりぶりだった。
ストーリー的な特徴を言えば、一見フィルム・ノワールに見えつつ、それまでの定式を見事にうち破っているのが凄いところで(それこそがヌーヴェル・ヴァーグの真骨頂だ)、通常ファム・ファタール(運命の女)となるべき存在のジャンヌ=モローの弱さを前面に出しているのが面白い。ジュリアンを求め、夜の町をふらふらと彷徨う彼女の演技がこの作品を特徴づけている(ここでトランペットがもの悲しい調べを送ってくれるのがなんとも凄い演出)。
ただ、ここまで褒めておいてなんだが、残念な部分もある。ストーリーがちょっとお粗末すぎる事。演出が素晴らしい上、エレベーターに閉じこめられるなんて設定が良いのに、肝心の物語が、ちょっとこれはないんじゃない?のレベル…ここが若さだったか!
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