コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 鷲の指輪(1993/ポーランド)

悲劇とかいいようのないストーリーに感じるアンジェイ・ワイダのシニカルな視線と重く美しい絶望感。
らむたら

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







観終わった後すぐに書かないと登場人物の名前を忘れちゃうなぁ……ということで名前に関しては大雑把だけど、ご勘弁を、読んでくれる人がいればだけど。

この映画を観て思わず嬉しかったのは、ワルシャワ蜂起において、国内軍内部で暗躍していた(ソ連)共産党のスパイが『殺人に関する短いフィルム』の主役だったミロスワク・バカだったことかな。いい味を出していた。

主役は国内軍の一派だと思うのだが、ロンドン亡命政府派の急進的出先部隊の言い成りになることを潔しとせず、ほとんど単独行動といった形で、大戦後において共産党に“無所属のスパイ”として防共を第一目的として、ロンドン亡命政府のために暗躍していたように思われる。名目的には亡命政府のために働いていても、度々 国内軍の部下(といっても片足の少年と彼を愛する看護婦しかいないのだが)と秘密の会合を持っていることから、亡命政府の遠隔操作による状況分析を弁えない理想主義的な方針や急進的な活動とは別の道を模索していたと思われる。

一つの見所は彼をスパイと勘ぐっている公安局の党員との息詰まるような心理的な丁丁発止。「罪と罰」のラスコーリニコフvsピョートル・ペトロービッチを思わせる精神的な眩暈にも似た重圧感と緊迫感と圧迫感。

結局彼は公安局に捕われた(亡命政府派)国内軍の大物将校の救出のために共産党を利用しつつ出し抜いたつもりになっていたが、その活動自体が公安局に察知されてて、公安局の掌の上で独り善がりのヒーローを演じてたに過ぎないだ。そしてその善意のヒロイズムがカトリックと組んで国内で反旗を翻す機会を窺っていた亡命政府派の一網打尽という破滅をもたらす。善意のヒロイズムと断罪してしまっては冷笑的にすぎるのだが、アンジェイ・ワイダ自身の視線が非常に冷笑的なので、ポーランドに対して部外者であり映画の一観客に過ぎない僕としても戸惑いを覚えるほどだ。「聖週間」においてユダヤ女人を匿った善意のポーランド人のインテリも状況を把握し批判的でありながら自ら行動することもなく受動的であり傍観者的であったが故にナチスに殺された。それはナチスに殺されたと同時にワイダ監督に断罪されたのだ。これと似た厳しいシニカルな眼差しをこの主人公に対しても感じてしまう。少なくともラストに於いて死んだと思われていたかつての恋人が戻ってきて、再び結ばれると思いきや、かつて二人を結んでいた“鷲の指輪”からは王冠とともにかつての互いに対する想いも削り取られていたがゆえに徹底的な絶望の淵に身を沈めてしまう主人公に、そしてそういう結論しか導き得なかったワイダ監督の想いには痛ましさを感じる。

この映画の映像は非常に美しく登場する主役やその恋人も美しく、若く、瑞々しい。彼は祖国のために全てを投げ打って滅私奉公したわけだが、その美しい言動ですらポーランドの共産化の歯車として意に添わない役割を果たしたにすぎなかったわけで、この徹底的にシニカルな悲劇としかいいようのない筋立てに底流する絶望感は重い。だが、美しい重さなのだが……リセット不可能な歴史を撮り続けることの切実であるがゆえのジレンマ、絶望的な出来事の連続するポーランドの歴史を手を変え品を変えあらゆる角度から撮り続けてきた誠実な精神が内向し、その高い内圧によって純度の高い絶望的な悲劇へと結晶してしまったのだろうか?

最後に気にかかることが。映画中、とあるバーでウォッカを注いだ杯に点火して死んだ同志を弔う二人の男が出てくるのだが、あのシーンは『灰とダイヤモンド』の 一シーンでもあったような気がする。いつか確認しておこう。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。