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[コメント] グリーンマイル(1999/米)

牢屋で鼠に芸を教える話‥、どこか懐かしい‥。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 牢屋で鼠に芸を教える話‥、どこか懐かしい‥。 昔、記憶が曖昧な頃に、観たことがあるような気がする。 この映画が初見ではない?! ‥そんなことあるはずないのだろうけれど。

 観て良かった。良かった。‥しかし、胸の痛くなる映画です。 もう観たくはない‥一度だけで十分な映画。 だから‥見る目の育たない内には、観ない方がいい‥ 見る目が育ってから、観て欲しい映画。そんな風に思う。 推理物やSFではありません。

■「計算が合わない」

 心憎い台詞です。

 この台詞は、歩行中に正面のガラスへ頭を打ち付けたような衝撃でした。 単に爺さんの懐古として観ているだけでは、そんな疑問も沸かないし、 一瞬その意味が判らなかった。

 彼が今、何歳で、何年前を懐かしんでいたのか。 あの劇中劇‥映画の撮影年代。昔観たんだと叫んだ脇役のおじいさん。 彼が、何歳の時を懐かしんでいたのか‥。 ‥今まで観ていた記憶を掻き回される。

 彼の苦悩を共有していたような気になって潤んでいる私を、 ぐんっと突き放す。 この程度の私ではとうてい計り知れない深さなのだ‥ ‥そのように自覚させられる。

 一度の視聴で理解でき難いようなことを、自覚させるような演出は、 ほんとうに心憎いです。二度目を観るように促す。

 この事は、物語の中からすると、ほんの些細な事だし、そんなことに 気づかなくたって伝わるメッセージはあまりに大きいのだけれど。

■光る物を吸い上げて、虫みたいな物を吐き出す。

この映画では「光」を良い物として描いては居ない。 吸い上げた「光」は「死の源」であった。 生物は「それ」を取り除く事によって健康を得ていた。

 神の奇跡とポールの呼んだジョン自身の存在も、 この「光」のようなものだったのだろう。  ジョンは超能力を持っていたが、聖人ではない。確かに死刑囚であった。 彼は冤罪でマイルへ来たが、死刑囚として死んだのだ。 彼は間接的に‥超能力を認めれば直鉄的に‥殺人を犯している。 一人を再起不能な病に落とした。

 ポールの苦悩は、ジョンを‥神の奇跡を‥救えなかったところにはない。 神の奇跡を惜しんではいない。きっと。 それを渡され、それを持っている自分を、むしろ呪っている。 天罰だと言って、奇跡の力をただ持て余している。 使おうとも思っていない。使えるかもしれないとさえ思いもしない。 自分の持つ長い時間をいかにして役立てようかとも考えもしていない。  神の奇跡を自らの寿命で体現しているのであるが、奇跡を振る舞おうとは 決っしてしないだろう。

 愛するものに先立たれる哀しさ。  永遠にも感じられる長寿の恐怖。  その原因を作った己の体験を、悪夢として見続けている。 それは、自分のとった行動…視聴者が心情的に後押ししたであろう幾つかの善行‥への後悔なのかもしれない。

 彼が奇跡の力を‥記憶を受け継いだ時、同時に受け継いだと懐古する 力を‥受け継いでいる事に気づいたのは、何時の事だったのだろうか。 年老いて自分の年齢を訝しんでからでろうか。そうではあるまい。  それは、Mr.ジングルスがネズミの寿命を凌駕し始めた頃。 引退のかなり依然から、すでに気づき始めていたのだろう。

 少年の更生に勤めたと、過去を良き時代だったと振り返るが、 ジョンのように誰かを救おうとは、思いはしなかったのではないか。 死を病を回避すべきものと信じていた頃を、恨めしく振り返っているの かもしれない。

 長命の恐怖からは、延命を良いものとは思えはしまい。

 良き時代とは、奇跡の力を持っているとは気づいていなかった時代。 だとすると、悪夢を見るようになったのは、奇跡の力に気づいた頃からだろう。 言うまでもなく今も魘される悪夢とは、奇跡の力を受け継ぐまでの課程である。

 映画に描かれたマイルの生活をこの映画を悪夢として見ているのだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)アルシュ[*]

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