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[コメント] 楽園をください(1999/米)

内戦に翻弄される若者像を描きった部分では満点。ミニマムな視座による南軍からの南北戦争の歴史的意義の再構築って意味では、いかんせん中途半端。台湾人であるアン・リーの限界なのか。
Kavalier

そのほとんどが北部に組したドイツ系移民、解放される側である黒人、この特異な出自の南軍兵士マイノリティ2人を、狂言回しに使うことで、南部人をある程度は相対化させなければならないのに、2人を描くことのみにいつのまにか焦点が移って、彼ら以外のメイン登場人物でもある生粋の南部人である他の3人が、主人公達の鏡としてしか存在しなくなってしまう。これは、トビー・マグワイヤジェフリー・ライトの役者としての存在感が大きすぎることもあるんだろが…。ただ、この2人の友情の過程には心を打たれました。

映画のラストは、主人公達に希望と託したその後を暗示して終わるが、南部から描いた以上、南部の敗北感を背負った人物を置くべきだろう。単なる、主人公達が回避せしめた末路としてしか作品上へ存在意義を与えられずに、映画の中途で死んでいったスキート・ウールリッチその他や、スタイリッシュに殺しまくってそのまま狂喜の末路を迎えるジョナサン・リース・マイヤーズ。これじゃ、南部って物が描かれていないばかりか、臭い物に蓋をしているのとどう違うのか。

南北戦争は、南部が敗北して南部人が沢山殺されて終わりましたって戦争ではない。隣人が殺し合う、そして戦争が終わった時の敗北者としての南部の遺恨。登場人物の相関関係は明らかにこれを描こうと示唆しているのに、中途半端な決着付けに終わってしまっているではないか。「アメリカの若者の原点を描きたい」とアン・リーは語った以上、逃げてはならない。

虚無感に浸された戦争(戦場)を、情緒的で静謐に切り取った撮影、役者陣の過剰でないながら奥の深い演技合戦は本当に素晴らしい。

自分が昔は過度な歴史好きであった為に、映画を楽しめないのはちょっと嫌だ。

(評価:★4)

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