[コメント] ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀(1990/米)
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『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の息苦しい作風から、幾分軽めの娯楽作品に傾いた感じがします。
ファーストゾンビが登場する直前に「見た目がゾンビにしか見えないが、実は挙動不審なだけの人間が偶然通りがかり、バーバラに倒れ掛かる」というのはいくらなんでもB級過ぎるでしょう。また立て篭もり先で、不用意に窓へと近づいて襲われる様は、サンゲリア2のようでした。オリジナルでも窓から襲われますが、小走りで通り過ぎようとしたところをタイミング良く掴まれた、といった感じでリメイク版ほどわざとらしくありません。それにベンがたいまつで攻撃する所作はフェンシング風になっていまして、投げは柔道風です。人類の終焉が近づきつつある中でゾンビ相手に出せるような動きでは無く、これもまた娯楽化の一端と言えます。
オリジナルより良いと感じたのはカップルであります。まず女側は混乱の極みといった様子ですが勇気を振り絞り、出来る限りの協力をしようと怯えながらもアイデアをひねります。彼女は一般市民代表ともいえる役割で、私にとって今作最も感情移入できる人物でした。男はベンとクーパーの仲介役といった感じがしますが、プロットにもう少し影響させても良いのではないかと感じました。
逆に気になった点としましては、ベンとバーバラの役割がかぶっているような印象を受けるわりに絆が深まらなかった点です。恋愛関係に発展させろとは言いませんが、絆が深まる事で、プロットにオリジナリティを加えられたのではないでしょうか。またはバーバラを、機械のように冷静で、もともと勇敢な性情に設定するべきだったと考えます。あのように威力がありそうで反動も大きそうな銃を訓練もせずに容易く扱えるのでしょうか。一般女性から戦士へと変貌する過程にも説得力を感じられませんでした。狂って乱射する様子は心理描写の一つというより見せ場を少しでも多くしようとする魂胆が感じられます。
この作品は見せ場の数を増やしテンポを早くしている傾向にありますので、変化をじっくり描いている暇はありません。オリジナルとの差別化を図るためにも、例えば終わる気配の無い論争をするベンとクーパーを尻目に家に進入しかけているゾンビをバーバラが無言で撃ち殺し、銃声がきっかけとなって論争が終わる。といったような作品であるほうが良かったと思います。もっとバーバラを明確な主役とし、過去のベンは捨て去ってこそのリメイクだと思います。それにバーバラを終始クールに描くことでラストの嘆きがよりインパクトの大きいものになるのではないでしょうか。
次に、クーパーの妻の娘に対する愛情を示す描写がオリジナルより少なかった印象があります――具体的にいうとカップル(女)を呼ぶシーンなど――いっそ母子は削り、クーパーは全くの別キャラとしてまさに悪を体現しているような人物にしたほうが良かった気がします。
ラストに関してですが、バーバラの台詞は説明的であり私的に蛇足であるように思えます。画だけで十分過ぎるほど物語っています。思想的なものとしてオリジナルよりも進展した印象も無く補足というよりかは「マニアや批評家が持ち上げてる部分をサービスしてやるか」といった親切心的なものを感じます。ゾンビ狩りメンバーのうちゾンビ化したベンを殺した男にかんしても、ガムをくちゃくちゃと大袈裟に噛んでいて、絵にかいたようなB級なチンピラであります。これらを踏まえて「人間の残虐性を強調した、より良いラストを意図した」とは到底思えないのです。どうせならその男がゾンビをおもちゃに遊んでいるところをバーバラが撃ち殺す。そしてゾンビ狩りの仲間には「噛まれたから」とでも言い訳し、メンバーは誰も男の噛まれた痕を確認すらせず言い分を鵜呑みにし、改めてゾンビ娯楽に勤しむ。といった風にしたほうがオリジナリティが出たと思います。
サビーニが言うようにオリジナルから遠ざけようと配慮した点は感じられますが、画を中途半端に踏襲(影の使い方やファーストゾンビのショッキング度は劣化)し、人物設定もオリジナルティが多いようには感じられず白黒版の性格につぎはぎしたようです。脚本はロメロとありますが、私はサビーニが書いているのではないかと思うんですよね……。
ただしこの作品を「面白い」と評することに異論はございません。私自身今作と同じ点数をつけているリメイク版『ドーン・オブ・ザ・デッド』よりもずっと楽しんで鑑賞できる作品ですが、諸所の理由からこの点数とします。
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