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[コメント] キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(2002/米)

ここまで極端にキャラ性に依存した作品は最近では結構珍しいのではないでしょうか?主役がディカプリオでなかったら、全く別な物語になっていたでしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 ここでディカプリオを主役にしたのは、物語の方向性を見事に掴んだように思える。かつて『タイタニック』で一世を風靡したディカプリオだが、この人の魅力を一言で言ってしまえば、「不安定さ」と言うことになるだろうか。この部分を見定められないと、映画は大コケしてしまいがち(事実『タイタニック』以降のディカプリオ作品に碌なのが無かったのは、その不安定さを上手く表現できなかったからだと思われる)。

 ハリウッドの映画では昔から主役男優には安定性を求める傾向が強いのだが、時折それには当てはまらない不安定な演技をする人が出てきて、それが突如として大ブレイクすることがある。典型的例で言えば『エデンの東』のジェームズ=ディーンになるだろうけど、それに負けず劣らず不安定さをしっかり演技できる近代の俳優だと、やはりディカプリオと言う事になるだろう。

 主役は実在の人物だが、ストーリーは同じでも、作り方は色々考えられる。ふてぶてしい人物を主役にして、いかにも鉄面皮な詐欺師とすることも出来ただろうが、ディカプリオのような不安定な人物を主役にすると、やってることと本人の性格に大きなギャップを演出することが出来るようになる。勿論かなり難しい演技指導が必要になるのだが、その辺は流石にスピルバーグ。見事にその辺を簡潔な演出のみで見せつけてくれた。

 フランクの不安定さは両親の離婚によるもの。彼は家族というものに非常に大きな理想をもっていて、理想的な家庭を夢みていたはずなのだが、それが最初に崩されてしまった。それが彼の精神に与えた影響は大きい。「理想的な家族」を作ることが彼の最終的な命題になるが、一方学も技術もない自分にはその資格がない。と言うアンビバレンツな感情に悩まされることになってしまった。

 普通の人物がこのような状態に陥った場合、今からでも出来る。と奮起して自分を磨くか、あるいは最初から自分には縁がないものと諦めてしまう。しかし彼の場合、人を騙すことによってそれを手に入れられる。と思いこんだところが面白いところ。善悪を超越し、自分の理想のために邁進するため、人を陥れることや偽ることに関しては、全く躊躇がない。彼は彼自身の理想のために、自分を磨くためにこそ詐欺を働いているので、これに関してはどんな職にあっても、自信たっぷりに大胆に行動する。一方、本当にその理想的な家族が出来ようとしたとき、彼は非常に不安定になってしまう。「家族」というキー・ワードによって、フランクは自信満々であることも、シャイになることもある。その部分のギャップの魅力を引き出すことが出来た時点で本作は良作になり得た。その意味でディカプリオは予想通りの演技を見事に披露してくれたわけだ。

 一見軽めの作品ではあったが、人間の心理を行動のみで描写できるか?と言う点でスピルバーグにとってもかなり賭の要素の強い作品だったのかも知れない。一方では安定した演技でそれを支えたハンクスの巧さも光る。

(評価:★3)

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