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[コメント] 悪魔の呼ぶ海へ(2000/米=仏=カナダ)

マレン役サラ・ポーリーの表情演技は素晴らしかった。
わっこ

**ネタバレ注意**
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19世紀に起こった殺人事件の真相を探る女性写真家の現代のエピソードと19世紀に起きた殺人事件のあらましを描いた過去のエピソードが交互に展開するサスペンスドラマ。

19世紀に起きた殺人事件の真相を現代のエピソードの主人公ジーンが探るわけだが、19世紀に起きた殺人事件の真犯人の正体が唯一生き残ったマレンであることは序盤から想像がつくし、中盤でジーンが殺人の矛盾に気付くシーンもすぐに察しついてしまい、終盤も特に意外な展開になるわけでもなくこじんまりとしたラストで映画終わる。

ストーリーからみれば、展開的な面白味はあまり感じられない。しかしこの作品は、サラ・ポーリー演じるマレンの心理描写や人間像の描き方に卓越したものを感じさせられる。

幼少の頃に兄のエバンと性関係を持ってしまったことを姉のカレンに密告され、父親の策略で子供はおろされ、好きでもない男と結婚させられ、アメリカに移住させられる。そして異国の地での生活という不安やエバンへの愛を忘れられぬ未練を抱えながらも、その感情を表に出さず必死で平然を装い、仕事に取り組むことで何とか感情を抑えてきたが、カレンの移住や下宿人ルイスに目をかけられることで彼女の中でそれまで抑え込んでいたエバンへの感情が徐々に抑えられなくなり、エバンがアメリカに移住することになり初めて抑えていた感情を露にする。

この後、マレンがエバンが結婚し妻がいることを知り、精神的にひどく傷つきながらも何とか平然を保って生活しようとするところは彼女の繊細な心理状態が巧みに描かれていてなかなか興味深い。

マレンがエバンへの未練と必死に葛藤しながらも精神的には徐々に追い詰められ、最後にはカレンにエバンの妻アネットと同性愛であると勘違いされたことでそれまで彼女の中で必死に抑えていた感情が一気に爆発して殺人に至ったわけで、彼女の殺人行動は衝動的で無自覚であり、ソーラ・バーチ主演の『』ように事件後に証拠隠滅を図ろうとする女性異常犯罪者よりも精神的な病という部分ではリアリティもあるし、感情移入しやすい。

また役者としてもこの作品でマレンを演じたサラ・ポーリーの表情演技は素晴らしかった。異国での生活の不安やエバンへの感情を必死で覆い隠して何とか平然を装うと、夫や下宿人のルイスにふるまう無表情な表情、カレンにエバンのことを聞かされ初めて動揺を見せる表情、エバンがアネットと楽しそうにしてるところを遠巻きに見つめる寂しげな表情など台詞がなくても表情だけで感情が伝わってくる。

マレンが殺人に至るまでを描いた過去のエピソードだけならマレンの人間性を丁寧に描いた点も含めてかなり評価できる。しかし、現代のエピソードと交互に描いた構成の映画であるということを前提として観るとやや評価が下がってしまう。

それは19世紀の事件の真相を探る現代のエピソードがどうにも中途半端な位置づけにおかれているからである。19世紀の事件を探るジーンのエピソードが過去のエピソードと交互に展開するのだが、現代のエピソードでも過去のエピソードと同じスチュエーションが用意され、ジーンがマレンと同様の選択を迫られるという展開なら面白味があるが、現代のエピソードではジーンの夫トーマスとアデリーンの浮気という展開以外は特に大きな展開はなく、それが特に話に深く絡んでくるわけでもないし、19世紀のエピソードとシンクロするわけでもない。事件の真相を探るジーンのエピソードも重要性が薄い。

またラストではジーンがアデリーンが過去にトーマスを誑かしたと追求するのだが、そのシーンがどういう必要性があったのかも不明。ラストで嵐の海に飛び込んだアデリーンが助けに行ったトーマスを絞め殺したと思わせるようなシーンも追求されるわけでもなく消化不良。

せっかく『娼婦ベロニカ』以来の主演のキャサリン・マコーマックショーン・ペンエリザベス・ハーレーが出演しているのだから3人の三角関係を軸にしたサスペンスドラマを展開してもよかったように思う。

サラ・ポーリーの演技が素晴らしかっただけに、この映画は初めから過去のエピソードのみを中心に描いた方が面白かったように思う。

(評価:★3)

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