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[コメント] 東京上空いらっしゃいませ(1990/日)

「いらっしゃいませ、<わたし>から(わたし)へ」
蒼井ゆう21

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「いらっしゃいませ」という言葉がこの映画のキーワードになってる気がする。 いらっしゃいませという言葉は、出迎えの言葉だ。 出迎える人にとっては、 「あちら」から「こちら」へと来る人に対する言葉、 出迎えられる人にすれば、 「こちら」から「あちら」へと行く自分に対する言葉になる。 すなわち、既存のモノから新しいモノへと向かう時に使われる言葉 と言ってもいいと思う。 映画での既存のモノから新しいモノへとの移行。 それは、牧瀬里穂がデビューを約束するかわりとしての 「つるべい」の誘いを断り、同時に車に轢かれて死ぬ。 そしてあの世からの使者<つるべい>と出会い、 自分の死や、この世に戻るさいの条件などをきっかけにして いままでの自分というものを見つめ返し、 少なくとも芸能の仕事をしていた頃の自分を否定的に見ていく。 そして、バイトなどを通じて新しい自分みたいのをみつけていく。

これはすなわち既存の自分を見つめ返すことを通して 新しい自分へと移行するということではないだろうか。 中井がバイト中の牧瀬を見て、 「いらっしゃいませがさまになってきたな」と言うのも いままでの牧瀬から新しい牧瀬へと変化した、 ということを意味しているようにも思える。

それは中井貴一にしてみればもっとわかりやすい。 彼は自分の仕事に疲れ、疑問みたいのをもちながらも変わらず仕事を続けている。 そして仕事が終わると楽器を吹く。その時が彼にとって一番の楽しい時間のよう。 もしかしたら彼はその楽器を吹く夢をあきらめ、今の仕事をしているのかもしれない。とりあえず言える事は、彼は今の現状にはけして満足していないどころか、 不満を持ってるようにさえ見える。 それが牧瀬とのやりとりを通じて、彼は変わっていく。 そして最後、楽器屋でのシーン、 店員の「いらっしゃいませ」という言葉は すなわち、あちらからこちらへの移行、既存のモノから新しいモノへとの変化 (中井貴一の心境の変化。いままでの中井貴一から新しい中井貴一への移行) を表しているのではないだろうか。

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