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[コメント] 大河の一滴(2001/日)

「生きている」ただそれだけで、値打ちがあると思う…というテーマの原作だが、「映画がある」ただそれだけで、値打ちが認められるかどうか?
らいてふ

映画自体はとても丁寧につくられている。演技も撮影も音楽も…。積み重ねられるエピソードも、見るものの経験によってはグッとくるものがある。

ストーリーもエピソードもない、テーマだけからなる原作エッセイをいかに映画にするか。天才トランペット奏者セルゲイ・ナカリャコフの存在を除けば、ごく平凡な日本の一断面。そして非凡なセルゲイの才能も、この物語を非日常へと導くことは無い。登場人物たちの「平凡でなにが悪い。」というセリフは、観客に向けられているのだろうか。

ことごとく破られる登場人物の夢や目標に、ときどき浮き沈む人の心の小さな暖かさ。「この世は地獄」「人の一生は苦しみの連続」という絶望の底に、ときたま出会える小さな泡のような喜びや希望が「極楽」と原作は語るが、このメッセージを映画館で受け取れるかどうかは微妙だ。

なぜか、ジョン・アービング原作の『ガープの世界』や『ホテル・ニューハンプシャー』のような、いびつな登場人物とハチャメチャなエピソードの積み重ねのほうが、「人はみな大河の一滴。生きている、ただそれだけで、値打ちがある」というテーマが伝わってくるような気がしてならない。

P.S.セルゲイ・ナカリャコフはNHK朝の連続ドラマ「天うらら」のテーマを吹いた人。ニコライが雪子の前で吹いたのは、ラヴェル作曲の「亡き王女のためのパバーヌ」、最初のオーディションで吹いたのがハイドン作曲の「トランペット協奏曲変ホ長調」、雪子と昌治が入ったぜんざい屋で流れてたのは、バッハ作曲の「2台のバイオリンのための協奏曲〜第2楽章」。自分が楽器を演奏してたころの馴染みの曲が次々出てきて楽しかった。(01.09.15)

(評価:★3)

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