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[コメント] イカとクジラ(2005/米)

割れてしまって元に戻る事はない家族の欠片を一片ずつ見せられて、いちいちそれが胸に突き刺さるといった感じ。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







バラバラの家族それぞれの表情に見覚えがありすぎて、リアルとかそういうものを通り越して、実は胸糞悪いぐらいの気分になりました。あんな目をして親に見られた事もあるし、あんな目をして親を見た事もある。すごく嫌な目だし、すごく愛しい目。今崩れ落ちようとしている繊細な塊を、みんなが壊したくて守りたい。そしてみんながそのジレンマに苦しむというよりも受け入れているその態勢。すごく嫌な気分だけどすごく解る。

たとえば、父親が「夜、大事なお話がある」と告げた後の息子2人の表情。無言で学校に向かう二人の顔には不安と、そして未来の「お話の結果」が見て取れる。けれどもそこにはその結果を覆すだけの力はない。結果を受け入れるしかないという切ない選択しか残されていない力ない表情。私も今まで何度となくこういう表情をして妹と並んで歩いた事があったという過去の記憶が蘇る。忘れかけていたあの言いようのない不安感が募ってきて、居たたまれなくなりました。

ウェス・アンダーソンの描く家族像にはいつもこういうジレンマが付きまとっているように思います。ただその視線は緩やかで優しく、不器用で愛しい。だから彼の描くでこぼこな家族が好きなんですが、でも今回のノア・ボームバックにはそう言った視線が全くなく、傍観という冷たい(ある意味平熱な)視線が続く。この客観性が私にはとても恐ろしく、またとても悲しい気持ちにさせられました。

彼らのその後を観客に委ねるラストも物悲しく、私にはどうしても明るい未来を読み取る事が出来ませんでした。救いがないというか、私的にはバッドエンドとして写ってしまい、なんとも言えない奇妙な気持ちにさせられました。

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07.08.20 記

(評価:★3)

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