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[コメント] 三十四丁目の奇蹟(1947/米)

夢を見る心が人間にはあるのか?夢を失ってはいないか?と言うストレートな、そして本質的な問いかけがここにはある。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 アメリカにおけるクリスマスの定番と言える作品で、最も数多く全米でテレビ放映された映画と言われている。それだけ家族全員で安心して観られるハートウォーミングな作品。

 私にとっては、1994年に作られたリメイク『34丁目の奇跡』の方が観たのは先で、いい話には違いないけど、そこまで大騒ぎするほどでは。とか思っていたのだが、さにあらずだった。オリジナルである本作の持つパワーには正直、圧倒されてしまった。

 単なるハートウォーミング作品。では括ることの出来ない内容を本作は持っている。

 人間誰しも夢は持つだろう。だが、大人になるに従い、夢は手の届く範囲に限定されるようになり、それが具体的になればなるほど、人は現実に縛られるようになる。実現不可能あるいは本当に夢の世界だというのなら、それは現実とは相容れない単なる趣味の世界となる(例えば降霊術とか、妖精を観たとか、オカルティックに見られてしまいがち)。現実とは全く相容れない、何の得もしないものとして考えられてしまう。それよりは夢だったら、良い車を持ちたいとか、マイホームを持ちたい。家族に楽させたいとか、そう言ったものへと変わっていく。

 人間誰しも夢は持つ。ただ、その夢の方向性が限定されるだけのことだ。

 勿論ここでのオハラ演じるドリスは娘スーザン(何とナタリー=ウッドではないか!)に対しても夢を持っていたし、彼女にも夢を持つことを勧めてもいた。ただ、彼女の持つ夢というのは娘が社会の中で立派に育って欲しいとか、現実を見据えた人間になって欲しいとか、そう言う具体的な事柄に限られていた。そう言う意味では極めて現実的な夢を持っていた人物として描かれていたわけだ。

 しかし、現実を認識することは確かに重要だが、それだけで生きていくのはあまりに潤いがなさ過ぎる。人間的魅力にも欠ける。

 サンタというのは、心の中にある、一種の荒唐無稽な、象徴的な夢の代表のような存在だ。しかし、それこそが心の豊かさを象徴する存在でもある。

 それこそが私たちの言う夢そのものである。「夢がある」と私たちが言った時、それはまさに「私はサンタさんを信じる」というのと同じ方向性を持つものだ。  本作は非常にストレート且つ、ふくらみを持たせた形でそれを明示した作品だと言えよう。直球で“夢”を問いかけると同時に、サンタの裁判というアイディアで見せてくれる。

 それと本作は小技の数々が又巧い。まさにこの役を演るために役者をやってたんじゃないか?と思われたクリス役のグウェン。彼が子供に見せる笑顔と、大人に対する皮肉な目つきの違い。そして子役のナタリー=ウッドの表情が素晴らしい。最初心を開かず、小意地のわるさばかりが見えていたのに、徐々に、その冷たい仮面の下に、本当に夢を持っていることをかいま見せていることが分かり、そして最後はやっぱり小意地悪さを見せつつも、素敵な笑顔で飛び跳ねるシーンが又良いこと。その合間合間に入れられるウィットの効いた会話の数々も良い。

 裁判の展開はちょっと変な具合だけど、ほんとに笑えるし、面白いから良しとする。前代未聞の裁判だから、判事が混乱していたと考えればいい…いいのか?(笑)

 それに何と言っても良かったのはラストシーン。スーザンがクリスに頼んだのは家。これを本当にプレゼントしてしまったら絶対興ざめだと思ったのだが、クリスがスーザンにプレゼントしたのはそれではなかった。彼は家ではなく、家族をプレゼントした。そうドリスとフレッドに、スーザンの理想の家を買わせるという形で。最後に置かれたステッキが又、心憎い演出だった。

 裏話をいくつか。クリスマスシーズンの定番とされる本作は、実はオリジナル公開は夏であった。実はこのアイディアを製作者側の方がが乗り気でなく、低予算で作らざるを得なくなり、更にラッシュを観たプロデューサーのザナックはこれは売れないと判断したため、ヒット作が期待される冬は避け、夏に公開させたと言うわけだ。いくつかのの映画館では、これをロングランとして冬まで公開したとのこと。息が長くヒットしたわけだな。今でもまだヒットが望める作品だよ。

 それでクリスが入れられる精神病院は2年前に公開され、オスカーを取った『失われた週末』(1945)で舞台となったベルビュー病院が当初予定されていたのだが、その描写に激怒していた病院側に断られたとか…まあ、無理もないか(笑)

 リメイクの方も確かに良かったんだが、やっぱりオリジナルのパワーは凄い。

(評価:★5)

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