コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ヒア アフター(2010/米)

映画的快感に溢れた作品とは言える。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 常にチャレンジ精神を持ち続け、毎回異なった手法で観客を楽しませてくれるイーストウッド監督最新作。今回はややオカルト気味に、死者との交信というものを物語の主題にとらえている。ただ、上映期間中に311の事件が起こってしまったため、日本国内では放映自粛の憂き目にあった、やや不憫な作品でもある。

 監督としてのイーストウッドは、特に近年作品単体として隙のないものを作り出すようになったが、特にこの作品、映像的には本当に隙がない。出てくる会話の一つ一つ、脇役を含めて登場するほぼすべてのキャラクタの立て方、たいして大きなクライマックスがある訳でもないのに、それに至る過程をしっかり描いて静かに静かに盛り上げる手法。どれを取っても一級品である。というか、これほど古典的な意味で映画をしてる映画は最近あまり見られなくなってきたことを思い起こさせる。その意味で“これぞ映画”的な楽しみを提供してくれる作品ではある。

 ただ、映像としてはとても楽しめる作品には違いないけど、それが一般受けするのか?というと疑問がある。取り立てて大きな盛り上がりがあるでなし、事件も起こらないしで、物語としては結構退屈な部分もある。

 ただ、物語としての本作を考えてみると、“失ってしまったもの”と“得てしまったもの”の対比を描いた作品であるとは言えるだろう。

 本作には3人の主人公が存在し、一人はアメリカ、一人はイギリス、そしてもう一人はフランスと、全く違った場所で、それぞれ死者との特殊な関わりを持つようになっている。彼らはそれぞれかつて何かを失ったり、あるいは得たりしているが、それが特殊なため、付随して余計なものを背負い込んでしまったり、あるいは失ったりもする。得たものと失ったもの、それらを併せて考えてみると、不思議なことに、失ったものばかりに思えてしまうために、彼らは悩む。たとえばジョージは死者との交信が出来てしまうが故に普通の生活ができず、せっかく出来た恋人にも逃げられる。マリーも同様。彼女はこの能力をポジティブに考えようとするが、彼女の考えは一般には受け入れられず、結局前からの恋人も仕事も失う。マーカスは自らの半身とも言える双子の兄を失ってしまって、それを埋め合わせる何者も持たない。彼らに共通するのは喪失感ばかりだ。その代わり何かを得てはいるが、喪失感が深いため、得たものに気づくことはない。

 そんな彼らが出会うとき、物語は動き出す予感をはらんで収束する。これを「投げだし」と見るか、「余韻」と見るかで評価も変わってくるのだが、少なくとも、これから彼らは「何か」を得ていくだろう。その道行きを祝福することこそが本作で求められていることなのかも知れない。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。