コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 俺俺(2012/日)

亀梨和也は頑張ってるけど、まともすぎてはまってなかった。でも久々の三木ワールドを堪能出来たのは嬉しい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 いつも不条理で不思議な作品を作ってくれる三木監督の作品は、不条理とか悪夢とかを主題にした映画大好きな私にとっては大好物(とはいえ『転々』とかの割合普通の作品だって好きだけど)。『インスタント沼』からしばらくあまりその名前を聞くことはなかったが、久々の映画。これに行かなきゃ損ってなことで、わくわくしながら拝見。  …まあ、作品そのものとしては手放しで楽しめるタイプではなかった。面白くなりそうなところでするっとかわされてしまった感じもあるし、得意の不条理劇も、もうちょっと踏み込みがほしかったところ。やたらと増殖して画面出ずっぱりの亀梨和也も、頑張ってるけど雰囲気を作り出すまでには至っておらず。

 多分、この作品一般には“失敗作”の烙印を押されてしまうんだろうとは思う。その程度の作品ではあった。

 だが、それで面白くなかったか?と言われるとさにあらず。少なくとも私にとってはとても心地の良い作品だった。

 三木監督作品の楽しさは独特の“間”にこそあるのではないかと思っている。普段通り何事もない日常の中で、その日常のパーツの一部が突然変な動きを始め、それで混乱を起こしつつ、それでもそれを受け入れていって、新しい日常が現れていく。事象だけでなく、人もそうで、同じ顔をしていても昨日とは別人では?と思わせるような突拍子もない行動を取ることがあるが、それも日常の中に取り込まれていく、そんな感じ。リアルすぎる夢を見ているような、そんな感じの物語と言うべきだろうか?

 そして日常生活の中、ちょっとだけイラっとする突飛な行動を劇中キャラが時折行うのも面白い。静から動へ移行するタイミングが変な具合ではまってる。

 少なくともその点においては、本作は三木監督しか作れないような作品で、まさしく濃厚な三木ワールドが展開しているし、それにこういう空気感を味わいたくて劇場に向かったので、その意味では大満足を与えてくれた作品でもあった。

 それでも物語の据わりが悪いのは、結局の話主人公役の亀梨和也に問題があったか?と言うところだろうか?

 亀梨が悪い役者とは思わない。この役を演じるに当たり、体当たりでいくつもの人格を演じているところは好感を持てるし、「俺がこの作品を支えねば」という思いで頑張っているのも分かる。実際褒めるべきところはたくさんある。

 でも、一つ足りなかったのは、主人公が“まともすぎる”というところだろうかな?三木監督作品では、主人公が普通の行動を取るというか、予測可能な動きを見せると、作品の魅力は減退する。輪をかけておかしなキャラが主人公を引っ張っていければ良いのだが、この作品には、その引っ張っていく人物自体も亀梨和也となってしまったため、その重責を負うほどの存在感を出せなかったのが問題だろう。

 折角加瀬亮が三木作品らしいおかしなキャラとして出ているのだから、それをもうちょっと活かせていれば、本当に申し分ない作品に出来ていただろうに(折角途中で枯れも又“俺”の一人となったのだから、そこから怒濤のような巻き込まれ展開に持って行けば良かったんだが)…しかし改めて考えてみると加瀬亮って良いキャラになったな。『アウトレイジ』(2010)を経ることで、妙に場にそぐわない浮いたキャラを自然体で出せるようになってきた。これが出来る人は結構貴重だし、それこそ松尾スズキと共に、三木ワールドの(イカれた)常連として充分やっていける実力を手に入れたようだ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。