コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 許されざる者(2013/日)

時代背景を考えると、オリジナル版よりもしっくりはまってる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 元の作品の質が高かったから本作もちゃんと観られるのだが、設定的に、実はオリジナル版よりもこちらの方がしっくり来るという所が重要である。

 かつて『七人の侍』(1954)が『荒野の七人』(1960)にリメイクされた時は、どうにもやるせない気分にさせられたものだ。それは西部劇としての質は高かったものの、本来『七人の侍』が持っていた階級闘争的な部分がすっぽり抜け落ちていたということが重要で、農民が武士を雇うという設定の面白さが無くなってしまうと、魅力が一気に減ってしまう気分を感じていた。

 そして改めてこの作品を観てみると、オリジナル版である『許されざる者』(1992)よりも時代背景や設定などがしっくりきてしまい、とても面白い作品に仕上げられていることに気づく。

 まず本作の時代背景を明治に取ったのが素晴らしい。本作の設定からすれば、どの時代を取っても構わないかと思うのだが、敢えて明治。しかも蝦夷という地を選んだことによって、リアリティが格段に増した。

 黒船来航から怒濤の経過を過ぎてあっという間に日本は近代化を果たすことになる。だが急速な近代化は社会的なひずみももたらすことになった。これまで幕藩体制の規則が徹底されていたのが、ほとんど革命によって秩序が瓦解してしまった状態である。政府がなすべき事は山積状態であり、細かいところまで手が回らない。当然藩から県に変わったところで、県としても何をして良いのか分からない状態なので、ひずみというのはどうしても起こってしまうものである。だからどんなに非人道的な事が行われていても、それが黙認されてしまう時代でもあったのだ。

 本作はそのことをよく知った上で作られている。

 江戸時代にも搾取の構図は取られていただろうし、女性が虐げられることも多かっただろう。それを扱った時代劇は山ほどある。だが、そこではリアリティは不必要だし、悲惨な人間を虐げる人間と、その配下をばっさばっさ斬り倒すシーンの方が重要視される。そして視聴者の方もそれが当たり前と思ってしまう。

 ところが明治にその舞台を設置することによって、近代化の背景に、こう言うことがあったんだろう。と言うリアリティにもつながるため、非常に新鮮な思いにさせられる。主人公が倒す人間を最小限度にするのも、この時代性のリアリティにちゃんと適合している。

 結果として、イーストウッドが作り上げた映画の設定よりも遥かにこちらの方が説得力を持つことになった。むしろこっちの方が面白いし、主人公の行動にも納得がいく。面白い逆転現象である。

 そしてリメイクに当たり、今やアメリカ人にとって最もポピュラーな日本人である渡辺謙にするのは外せなかっただろう。本作は世界配信を前提としており、しかもそれにちゃんと担うだけの強度を持っている。何より日本という国を描く、とても優れた世界観を持った話となっている。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。