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[コメント] 幸福の黄色いハンカチ(1977/日)

「私は『男はつらいよ』だけじゃないんだ」という山田監督の主張が見え隠れしてる作品ですが、出来は確かに素晴らしく、本当にそれだけの監督じゃありませんでした。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は日本映画界においていくつものトピックを残した作品となっている。

 一つには、物語性よりも演出の派手さに陥りがちだった当時の邦画界に、ベタでもストーリーの良さで見せられると言う当たり前の事を明確に打ち出せたことがある。過激に走りがちな当時の流れにアンチテーゼを叩きつけることで、一旦映画の作り方そのものを振り返る機会を与えてくれた。

 男はつらいよシリーズで既に日本を代表する監督となっていた山田洋二だが(この年も『寅次郎と殿様』および『寅次郎頑張れ!』を監督してる)、あくまでそれは男はつらいよという頭文字がついた限定的なもの。その山田監督の引き出しにはまだまだ奥があることを感じさせてくれた。過激流行りの中、一貫して人間の物語を描き続け、それは進歩し得ることを明確に打ち出せた。同じような作品を作り続けながらも、時代時代で代表作を作ることができるのは監督の実力であろう。

 それに本作は高倉健、武田鉄也双方にとっても幸運な作品となった。高倉健にとってはそれまでアクションスターとしか知られてなかったのが演技派俳優として一皮むける事ができた。心に情熱を持ちつつ、自分に厳しく寡黙に生きる。と言う現代の高倉健の姿を確立したのが本作だった。一方、既に歌手としてデビューしていた武田鉄也が俳優としても一本立ちできる実力があることを示すこともできた…今やこの人が歌手であったと知る人も少ないわけだから、天職にめぐり合えたと言うべきなのかも。多少軽すぎのきらいはあるものの、この物語は彼の軽さは必要だった。桃井かおりも持ち前の気の強さが良く出ている。一瞬とはいえ最後においしいところを全部持って行ってしまった倍賞千恵子の演技も光る。実際この作品はキャラクタに助けられた部分は大きい。

 物語はかなりベタなものには違いないが、ロケ地を北海道に選んだことで雄大な風景をバックにでき、解放的な演出ができたのも良かった。暗くなりがちな物語の舞台には一見ミスマッチなのだが、上手く緩和できていた。男はつらいよで培った技術がここで活かせたと言うことか。それで最後のあの一杯の黄色いハンカチ…これ以上の出来すぎはない位のラストなんだが、結構これがドキドキするもんなんだよ。思わずどっちだどっちだ?と思わせておいてあのコントラストを見せてくれる訳だから。

 なんだかんだ言っても今観ても充分良い作品だよ。

(評価:★4)

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