コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] キャット・バルー(1965/米)

色々な意味で奇跡的な作品と呼ばれるだけのことはあります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 これは大変楽しかった。設定は徹底的に重く、しかし内容は明るく。こういうパターンが映画としては一番好きだし、何より主演のフォンダが溌剌としているところが嬉しい。

 本作の明るさは一歩間違えると単なるどたばたコメディになってしまう類のものなのだが(オープニングで自由の女神がローブを投げつけて銃を撃ってみせた時、これはコメディだろうと確信したくらいだから)、それをちゃんとカバーできたのは設定の重さと、バランスを取った脚本の出来の故。適度なところでちゃんとガンアクションもほどよく取り入れているため、緊張感も心地良い。

 何よりキャラクタが良い。最初単に向こうっ気の強いだけの女の子だったバルーが、持ち前の度胸だけを頼りに世を渡っていく内に、本当に強い女性になっていく課程も面白いが、やっぱり善悪二役を見事にこなしたマーヴィンだろう。善悪の区別を超越しているマカロニ出身だけに、この人はどんな役をやってもシニカルな魅力をたたえ、敵にしても味方にしてもやっかいな人間という印象を強く残してくれるし、この二役は根底こそ同じものを持ったキャラでありながら、表面的な違いというものをよく表してくれていたし、そのどちらにも妙な執念が感じられる。尤も、これでオスカーだったら、これまでの作品での鬼気迫る演技はどうだ?と言われそうだけど。

 色々な意味で画期的な要素を盛り込んだ本作だが、実際の舞台裏は決して楽ではなかったらしい。

 先ず製作費がほとんど無かった。この状態で監督、俳優共になんとかかき集めなければならず、監督はテレビで活躍していた若手のシルヴァースタインを格安で雇い、キャラクタは当時劇中と同じように重度のアルコール中毒で、ほとんど映画界から締め出されていたマーヴィンをこれまた格安で雇う。主演のフォンダに至っては、当時フランスのヴァディム監督と熱愛中で、映画のことなどほとんど考えてなかったらしいが(なんと『ドクトル・ジバゴ』の出演依頼まで断っていたという)、そのヴァディム監督から、キャリアアップのためにこういう役をやってみたら?と言われて、舞い上がって金のことなど考えずに出演を決めたとか…この状態でこれが作れたのはほとんど奇跡である。しかもどうせB級作品としか考えられなかったのに、出来上がってみたら大ヒットしてしまった。

 お陰で本作は映画史における伝説的な作品となった。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。