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[コメント] 丑三つの村(1983/日)

皆様方よ、今に見ておれでござりますよ
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 横溝正史の「八墓村」のモティーフとなった、1938年に起こった津山事件の取材から書かれた同名のノンフィクション小説を元に、キャラの名前などを変えて作られた作品(都井睦雄→犬丸継男)。内容の過激さからか、長らくカルト映画としてソフト化が見送られてきたが(ポルノ的な描写も多かったし)、近年ようやくDVD化されたので観てみた。

 作品そのものは80年代の後期ATGの流れに乗り、田舎で悲惨な青春時代を送っている青年を、その性のはけ口と共に淡々と描写していき、その悲惨さがクライマックスになったところで爆発するという構造を取っている。最後のパートさえなければ、本当に典型的ATG作品として観ることも出来るし、その作り方自体はそんなに悪いとは思えない。

 その前半のパートでの見所は何といっても性的描写と言う事になるだろうか。ポルノ出身の監督って事もあるんだろうが、ねちっこく描かれる濡れ場はかなりの見せ場。特に当時無名であった田中美佐子の体当たり演技は一見の価値あり。

 だが、本作の最大の見所は言うまでもなく後半。絶望した継男が武装して村人を次々に殺していく猟奇シーンとなる。

 当然ながらこの描写にかなり力が入っているだけでなくこだわりも強かったらしく、人をもののように扱って標的の如く殺すのではなく、一々殺される人間に命乞いをさせたりするシーンを敢えて入れて見せた。ドライに次々に殺していくならば、さほど思い入れはなくなるが、前半で色々と関係を持った人間が、泣き叫びながら殺されていくわけだから、その描写は凄まじいものになる。

 その中で継男の判断だけで殺される人間と殺されない人間が選ばれるってのが面白いところかも知れない。一人の人間の全能感と、理不尽さに震える(後にガス・ヴァン・サント監督が『エレファント』(2003)でやった手法だ)。

 そんな意味で、カルト作品として観る分にはとても楽しく(?)観られるし、古尾谷雅人の狂気っぷりを観るだけでも充分本作を観る価値はあるだろう。キャッチコピーともなった「皆様方よ、今に見ておれでござりますよ」という言葉は意外に目にする機会もあるので(特殊?)、どこでそれが使われているのかを探すという楽しみもある。

 ただ、本作には根本的な問題がある。

 人間が鬼として覚醒する部分に全く説得力がないということである。そりゃ色々苦労もあるし、蔑まれているという感覚が鬱屈していくことも分かるが、一歩踏み出すところがよく分からない。その部分って、とても大切なはずなのだが、それをないがしろにしたというか、月並みな復讐に落とし込んでしまったのは勿体ない。そこで説得力持たせられていたら、本当のカルト作の名作となり得たのだが。

(評価:★3)

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