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[コメント] ヤバい経済学(2010/米)

今まで見た経済学に関する映画で一番の出来。勿論元になったベストセラー本を読むのもお勧め。(内容がかぶるけど。)
t3b

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画の冒頭で説明されるインセンティブは経済活動における重要な要素だが軽視されやすい。ここを上手く導くことが必要。だが、勿論法律に違反しなくても裏や隙間を使って儲ける人はいる訳だ。勿論それが全面的に駄目とかいう事は無い訳だけど、そのおかげで世の中が貧乏になり、格差が極大化するなら修正する必要があるだろう。

商人の考え方として、”一番安く買って一番高く売る”というのがある。利益の最大化をするための考え方だ。そうなると派遣やフランチャイズは人の労働を極限まで削るべきコストと認識する。理屈としてはその程度で、単純だ。

経済学者は求人倍率が上がったと主張しているが、その募集されている仕事の中身に興味はあるのだろうか? 飲食や小売の24時間営業の現場で起きている事のニュースを読んで無いのだろうか?最低賃金やサービス残業を前提とすると、夜に施設が遊んでいる方が経営者は勿体ない状況と感じるのだ。IT土方が何故不況の中、求人が続いているかというと、殆どの人はプログラマとしてものにならず、離職率も恐ろしい程高く、キャリアを9割以上の人が作れない職種だからだ。それを知っているか?(IT土方が無くならいのは企業のシステムを作れば顧客企業の人減らしが出来ることでお金を取れることと、そのリストラで浮いたお金のおかげで飲食小売福祉より待遇がマシだから。)経済学者がそれを知らないなら無知だし、知っているなら無責任かつ悪意があると見るが。何故保育士が足りないと文句を言われた時だけは政府の補助が出るのか?介護士との差は?保育士のおかげで安くアルバイトで雇える母親が増えるからだ。(人的リソースに限界があるという論は正しいと思うが、24時間営業等を止めれば実は保育士や介護士にさける人数は日本の労働人口で足りている筈。ただ、やりたがる人がいないし、金銭的な評価が無い。)

勿論最低給与を上げなければデフレ脱出等ままならないだろうが、上げても企業側はサービス残業の増加等で対抗する筈。その道を防いだにしても時給1500円は年収288万円だ。ならば、他にも方策が必要だ。

ワーキングプアにしても年収で違いがあると考えているが、この方策の場合は家賃を払っている層に絞る。家賃を5万円払っているなら年60万円家に使っている事になる。20年で1200万円使う事になる。日本は人口減なので空き家が相当ある。勿論ボロ家もあるのだが、使える家が放置されている場合がある。(売りに出しているものを見るだけでも結構安いものもある。)その家をタダとは言わないが割引価格でワーキングプアの人が買えるような施策をすればワーキングプアの人に資産が出来る。老後に働ける時間が短くなっても少なくとも家賃は払わなくて済む。大病した場合は緊急の金策が出来る可能性がある。

こういう事を言うと、ワーキングプアはそもそも頭金揃えられないし、住宅ローンを返す途中に病気になったらどうするんだ?という話になるだろう。それは尤もだ。そこで政治に訴えることになるだろう。頭金無しにしたり、失業や病気や死亡時に借金を軽減もしくは棒引きにする保険(利益を出すためにやってる訳じゃ無く、ワーキングプアの人生を安定させるためだから保険代は月300円でも良い)を貧困層向けに作る法律を通す必要があるだろう。

これが非現実的に聞こえる向きもあるだろう。他国の例を挙げよう。シンガポール等で外国人家政婦が家庭労働を支えているから高収入を維持できるのだ、という説がある。別に嘘では無いが、シンガポールがそれだけで日本を上回った訳では無い。あの国に行けば判るのだが、少なくとも食事に関して言えばローカルのホーカーセンター(屋台が集まった場所)で食えば日本より安く健康的な(日本の安い食事は不健康なものが多い)ものが食べられる。つまり食事を作る必要が無い。外食が通常で家事から切り離されている。(中低所得者層に家政婦は雇えない)

住居に関してはHDBという建物を政府が大量に建てていて、中低所得者層(そういった人が買える価格に設定されている。建物は日本より雑な作りだがその代り面積が大きい。日本の建物は面積が狭いから凝った構造(収納とか)が必要という問題を抱えている。日照権の弊害も大きい)は人口密度で日本を大きく上回る国なのに日本人より面積が大きい持ちマンションに住んでいる。そして道路は五車線の道路がたくさん存在し効率的だ。MRTという地下鉄に相当するものが凄い密度で走っている。このMRTは路線拡大の速度も凄まじく、日本の首都圏以上のスピードで路線を拡大している。(勿論そのために土地の強制収容等が行われる。そこに日本のような異議申し立てが出来る余地は無い。)

つまり中低所得者が満足に生きられる施策の量が違うのだ。そのための公共投資も大量に行われている。移動も日本より効率的だ。(話は変わるが観光客だって全国に散らばるように成田と東京、品川、羽田の接続を良くすればいい。そしてこれは思い付きレベルだが、水戸、宇都宮、日光、中禅寺湖、前橋、高崎、軽井沢、佐久、松本、高山、飛騨、白川村、金沢を結ぶ新幹線を作って、新観光ルートとして売り出せば東京の不動産に投資した人間ばかりが儲かるだけでなく、地方の下支えになるだろう。儲かりそうなところには投資する必要がある。日本は富が地方にいきわたるためのやるべき公共事業をやらずに一過性のイベント系の事をやっている。)

日本でも昔よりは低所得者の人が家を買えるような方策を政府は取っている。フラット35は住宅金融支援機構が提供する全期間固定金利の住宅ローンだ。超低金利時代に金利が上下しないこのローンは不動産価格の下支えになっている。ただ、郊外に住んでいる人は実感しているだろうけど、首都圏では既に郊外の人口減少が始まっている。それは八王子の地位が落ちて立川が上がっているという形で表れている。(アメリカは人口が増えていて、土地に関する規制も多く、日本の家をウサギ小屋と言っていたのを都市の住人は笑えない状況になっている。)

だから、政府にその延長線上で低賃金の人が家賃で金を使う代わりに自分の資産を作れる政策を行ってもらうのは非現実的では無い。(そう言うと、人口減で資産として目減りするのでは?という意見があるだろうが、別に目減りしてもタダになる訳じゃない。家賃を払うよりは良い。逆に日本全土がバブルになるのではという問いには人口減時代にそれは余り考えなくて良いと言っておこう。都心部や地域の中核となるところは例外だけど。)

お金があると時短家電が買えたりして、良い循環が生まれるが、金が無い人は選択肢が減り、追い詰められるというのがある。私は安易にワーキングプアが自助でアニマルスピリットを発揮して人生を取り戻せるなどという言説に組するつもりは無い。ワーキングプアの人たちは努力をしなかった人たちなどでは無い。ただ、ワーキングプアに投資する事で経営者も儲かるし、世の中も安定するという言説は広げないといけない。特に企業経営者側(派遣屋やコンサルタントは闘う相手なので流石に交渉の余地は無いだろう)にだ。(イデオロギー系の人たちにも少しずつ反緊縮の人が増えているので、それを仲間内で広げるのにもっと頑張って欲しいのだが。)特に日本の震災後の議論せめぎ合いばかりだったので違う意見の人と議論を廻す方法論を提示した。(反緊縮を理解している人の幅を広げるため。まだまだ少ないのが現実なので。)

経済学というものは面白いものなのでいろいろ学ぶと言葉が変わる。私は特にウィリアム・イースタリーの”傲慢な援助”という本をお勧めしておく。この映画のように驚きを与えてくれると同時に貧困の解決方法を詳細に書いてある。

(評価:★5)