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[コメント] ダスト(2001/英=独=伊=マケドニア)

諸君、自分の物語を物語れ。そこに真実が、多分、宿る。
ボイス母

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヒトは皆、自分の物語(レジェンド・オブ・オレ)を紡いで生きる。 それは生きる支えにもなりえる、結構なパワーを秘めたモノである。

過去と現在(現実)がお互い干渉し合い、折り合いをつけながら(?)一つの歴史を作る。 その実際の、真実の所在はどこなのか?という疑問はともあれ、ヒトは何故物語を物語るモノなのか?その根元的な問いに対する答えが示されている気がする映画である。

この主人公(?)は理想の老後である。 ワカゾーに語って聞かせるのだ。自分の先祖の話をひとくさり。

そして、「で?・・・で??」と続きを聞きたがる姿にほくそ笑み、「続きはまた明日だぁ〜〜」と言いつつ、その物語の結末まで行き着かないウチにポックリ昇天してみせる。

そして、「あとの物語は託したゾ」と天国でほくそ笑む。

この監督、常に、「歴史の次の主人公である子ども」を出すタイミングが上手い。 「人を愛することを知らなかった男」が愛を知る瞬間の演出も美しい。

文句つけるなら、うるさい「コレデモカコレデモカ」状態な感動無理矢理盛り上げ音楽と、ハヤリっぽいスローモーション&アップで手ぶれで何が起きているのかよく分からない画面。

ロケ地は相変わらず、中世の面影を残す美しい土地を舞台にしていて、素晴らしい。 住宅の壁に描かれたイコンの絵柄と殺戮のシーンのコントラストが美しい。 (日常的に殺戮を実際、体験したヒトはその描き方が違うというか・・・淡々としてユーモアすら感じさせる、とても超越的な視線である。このあたりの比較は『鬼が来た!』と比べてみるのも面白いかと思う)

ソレはソウと、そろそろワシの話を聞いて貰おうか。 むかしむかし、、「大紀」という男が居た。 名家の出身で震いつきたくなるような美男子、しかし、この男には実は、「目が見えない」というハンデがあったのだ。 彼が小学生の頃、眼病を患い、「この子は成人前に失明するであろう」という宣告を医者から受けたのだ。

この男は「目が見えなくなっても出来る仕事はなんであろうか?」と悩んだ。 地方の素封家であり、政治家の息子として何不自由なく生きてきたのに、将来が閉ざされた気がした。

彼は決心して、小学校を卒業した年に、当時、水前寺公園前に居を構えていた琵琶奏者に弟子入りをすることとなる。 兄弟子や師匠に囲まれ、短歌や絵画、小説や古典等、芸術に満たされた環境で技術を磨き、やがて、一人前の琵琶奏者として独立する事になる。

幸いにも視力は全く失われると言うことはなく、成人後も日常生活に支障を来すほどではなかった。 そして、25歳のある日。彼は一人の女性に出会い、その手の美しさが忘れられなくなる。

なにげなく訪れた友人宅。 そこでお茶を出してくれた若い女性。そのお茶を出した手が、忘れられない。 恥ずかしくて顔もまともに見てられなかったのに、その白い、小さな手が強烈な印象となって彼のココロを捕らえたのだった。 寝ても覚めてもその白いたおやかな手が、彼女の優雅な仕草が脳裏から離れない。 「あんなに美しい手を見たことがない」 その手の持ち主は誰なのか?どんな顔をしているのか?知りたくて知りたくて、顔を見ることが出来なかった自分を悔いた。

彼は、「恋」を知ったのだった。

その後、様々な芸術家のパトロンとして生きた男の前半生である。続きは、またの機会に。

(評価:★5)

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