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[コメント] 子連れ狼 死に風に向う乳母車(1972/日)

馬鹿馬鹿しいほど派手で、そして圧倒的な格好良さを見せつけてくれた。一種チャンバラの頂点をなした作品と言って良いだろう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 大映の監督を長く務めた三隅は、職業監督の中では抜群の演出力を持った監督と言われていた。『眠り狂四郎』と言い『座頭市』と言い、この人の抜群の演出力によって見栄えのする画面づくりがなされていたものだ。

 三隅演出の大きな特徴は、これが大映作品の特徴でもあるのだが、一枚の画面の中にぴたっとアングルを決めた画面づくりができることだった。まるで一枚のスチール写真のように溜めの画面を作った上で、動き出したら激しいアクションに転換する。この切り替えが抜群に上手い監督なのだ。静から動の画面転換で、そのどちらにも特徴を作ることができるのは三隅監督の最大の特徴とも言えるだろう。

 そんな監督だから、動的な画面づくりは派手になればなるほど映えていくことになる。だが、大映にいた当時はそこまで極端な画面づくりができなかった。大映は基本すべてがセット撮影だったために爆発は演出しにくく、横に広がった撮影もできない。なにより予算的に厳しい。

 もし三隅演出を最大限活かす機会があるとしたら、大映ではなく東宝で、しかも慣れ親しんだ大映スタッフがいてくれて…ということを考えたら出来すぎなのだが、そんな奇跡的なコラボレーションが実現してくれたのがあった。それが本シリーズ、『子連れ狼』だった訳だ(ついでに言うなら主演が東映スターの若山富三郎ということで、三社の奇跡的コラボとなった)。

 三隅監督にとっては、これまで同様慣れ親しんだスタッフに囲まれ、潤沢な資金とロケまで許され、少々無理が利くアクション俳優を主演に据え、多量火薬使用可能とあっては、もうやりたい放題できる環境が揃ってるということ。

 それでも一作目、二作目に関してはまだ多少堅さが残るというか、資金の使い方がこなれていなかったが、かなりのヒットを記録した三作目。これ以上無い理想的なシチュエーションが揃ったことになる。

 そこで作られた本作は、もはや較べられるものがない。リアルタイムでこれを劇場で観られた人がいたら、心底それを羨ましく思えるほどの素晴らしい出来だ。

 これはもう一種邦画アクションの頂点と言って良いほどであり、以降、たとえばこれ以上に派手なものが作られたとしても、それは本作の模倣に過ぎないと思える(事実4作目以降の本シリーズは同じことをやってるだけになってしまった)。

 それだけラストシーンの演出は際立ってる。一刀対有象無象の戦いは、もはや殺陣のレベルでなく、殺し合いというか、一方的な虐殺というか…ある意味このまんまの演出で『ターミネーター』新作作っても良いくらい。若山富三郎が跳び、刀や槍を振り回し、そのたびにばったばったと人間が倒れていく。なんというか、このシーンは多幸感すら感じてしまう。それでも徐々に傷つき、ぼろぼろになって、これ以上はもう戦えない。後はもう終わりか?そのように思った瞬間にあの乳母車が…

 ここまでやったら大笑いしてしまうが、それ以上に「なんて格好良いんだ」と思える作りがすごい。

 邦画のアクション作品の頂点は『七人の侍』(1954)になるのかもしれないが、全く芸術とはほど遠い場所に立って、もう一つの頂点に到達できた作品として語り継がれていくべき作品だろう。もっと人の目に触れてほしいと思える作品の一つだ。

(評価:★5)

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