[コメント] 東京騎士隊(1961/日)
開巻は組長三代目襲名披露宴のモブのショット、金屏風の前に立つ和田浩治を画面中央奥に置いたシンメトリーの画面だ。和田の隣には金子信雄と南田洋子がいる。金子は専務で、南田は二代目の未亡人(和田の義母)。和田は米国の高校に留学中だったが、二代目(父)が事故死したため、急に呼び戻された、というような経緯が、金子の挨拶で分かる。また、画面左手前(末席)には小沢昭一がおり、画面右奥上座には嵯峨善兵がいる。小沢は現場監督のような古参の組員、嵯峨は同業大手(競合)の社長のようだ。嵯峨が乾杯の発声をする。こゝに唐突にセーラー服姿の禰津良子が出現し、和田に注がれた酒(シャンパン?)を悉く禰津が飲み干していくというコメディリリーフ。禰津は小沢の娘で、和田のことをお兄ちゃんと呼ぶ。といったカタチで、主要人物をアバンタイトルの中で手際よく見せ切ってしまう好調な出だしだ。あと主要人物を付け加えるなら、和田が入学した高校の同級生で、実は嵯峨の娘だった清水まゆみぐらいか。
和田は高校の部活で、ラグビー、ボクシング、フェンシング、音楽部に所属するが、清水は音楽部の部員だ。本作が「良く出来ている」と感じる理由の一つには、沢山の脇役たちを見事にさばいて、それぞれキャラ立ちする良い見せ場が与えられていることがあげられるだろう。ラグビー部員で夜はクラブで歌手をやっている若きムッシュ・かまやつひろし。同様に音楽部員のハスキーヴォイス−三村和子もクラブで「ソーラン節」を唄う。あるいは英語教師で音楽部の顧問のジョージ・レイカーも出てきたときは全くの端役かと思わせるが、終盤に至るまでいくつかの目立つシーンがある。
また、悪役も嵯峨の部下で近藤宏、木島一郎、柳瀬志郎、上野山功一らが逐次登場し、彼らもそれぞれにコワモテの見せ場が用意されている。もっとも、やっぱり一番良い悪役は本作でも金子信雄であり。彼の殴られる際の顔作りに一番昂奮したかもしれない。
最初に書いた通り、清順らしい奇矯な演出や、ちょっと普通じゃない空間の造型といった部分はほとんど無い作品で、活劇のプロットを手際よく見せること、そのために素直に繋ぐことを優先しいているようにうかがえる。これは、同年の和田浩二+清水まゆみコンビ作『峠を渡る若い風』や『海峡、血に染めて』も同様であり、戦略的な選択だったのかも知れない。清順っぽい空間の重層的な見せ方としては、唯一、和田の自宅の場面で、縁側からガラス窓の向うに南田と友人の踊りの師匠−東恵美子を映し、次に、奥の部屋のガラス窓の向うに、踊る和田を映して繋いだ、ガラス窓越しショット2連打ぐらいか。
あと、とても良い俯瞰ショットというか、俯瞰の画面を作るロケーションが2カ所ある。一つは和田が帰宅すると、南田と金子がキスをしており、驚いた和田が散歩して来ると云い外に出て、コッカ−・スパニエル犬と一緒に歩く高台のショット。背景の遠くに川が見える。もう一つは、和田と嵯峨が会話するゴルフ場のシーン。2人のバックに見える丘陵地が綺麗だ。こんなところも含めて、本作は、普通に演出したときの(それは不真面目にと云ってもいい)清順はこれだけ出来が良い、ということを示していると私は思う。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・和田や清水の高校−エリザベス学園の校長・ミセスエリザベスは細川ちか子。
・音楽部の小沢直好が、自分は清水のナイト(騎士)と云う。
・音楽部には他に浜口竜哉(ドラム)、金井克代(トランペット)がいる。
・和田が嵯峨に連れて行かれるクラブのプロ歌手で水上早苗。
・和田と清水が2人で会話する場面は、神宮外苑・絵画館から国立競技場前。
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