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[コメント] 悲愁物語(1977/日)

個人的には清順の最高傑作。タイトルと予告編は真面目なのがまず素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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リアルタイムで予告編を観た人はまんまと騙されたのだろう。私もタイトルに騙されたものだった。

今はよく知らないが、一昔前まではゴルフをする奴は転落するという常道が日本映画に確かにあったものだ。本作はこれを踏襲し、かつ典型としている。岡田真澄原田芳雄はお互いのゴルフウェアを見比べて「まるでチンドン屋だ」と云う訳だが、正にこの作品にはチンドン屋しか出てこないのである。

序盤は久々の作品なのだから不調なのか、と心配させるところまで計算に入っているのだろう。家々のアンテナを捉えるエンプティショットから突然ギアアップする呼吸が最高である。70年代はこういうハチャメチャな映画が盛んに撮られたが、本作は最高の部類に入るだろうと思う。

本作の主演は江波杏子であり、真面目に演じても冗談半分にみえる人だが、この特質を生かしたキャスティングが素晴らしいとしか云いようがない。中年女の恐ろしい一面を放出して観客を震え上がらせるに充分である。空き家で原田芳雄と抱擁する展開は清順お得意のジャンプショットと相まって爆笑もの。左時枝も最高のはまり役だし、殺されるために登場する小池朝雄の殺され方も、そのアホらしさがいい味出している。子役も奇妙でよい。桜の木の下での初心な交際は何なのだろう。中年の色恋と対照にしているのだろうが、意味づけなど考えない方がいいのだろう。基礎だけ出来ている新興住宅街という背景も、高度経済成長当時の不気味さを漂わせて秀逸である。

(評価:★5)

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