[コメント] 東京キッド(1950/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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話はひばりを保護し川田晴久が懸想していた高杉妙子(この人がキレイ)が死んじゃって、ひばりと川田のふたり暮らし。川田は犬っころのように方々にひばりを捨てて行くのだがどれもが失敗する。川田がひとりボートで逃げて海に転落したとき、腹膨らませて口から噴水のように水吹き上げる描写は寅次郎らしく、ひばりの泣かせを中和している。ここまでされても、ひばりが川田を慕うのは異常のように思われる。
ひばりは寝る前に枕を円描いて撫でて「こうすると愉しい夢が見れる」といわれて川田も倣ってみると牛に追いかけられる夢を見る、という件も面白い。ひばりはハワイで愉しむ夢を見ていて、ここは『憧れのハワイ航路』の回想になっている。
ひばりの前に十年振りに現れた父のアチャコはひばり捜査に懸賞金をかけていて、母の遺言でアチャコから隠れているひばりは男装しているが、流しの唄のために変装をといて見つかる。金持ちの生活、それでも川田の処に戻る、という動機が腑に落ちず、『サンライズ』みたいな殺しかけた男の処へ戻る女、という説得力に恵まれていない。
坂本武が理屈つけてひばりをアチャコの処へ返す展開もイマイチ。最後は坂本武のお芝居で警察に捕まってアチャコの元に連れ去られ、ひばりとアチャコは仲良くアメリカへ旅立つという急激なハッピーエンドで、私は茫然と見送るばかりだった。ただ西條鮎子は川田がひとりになったのを見て悦んでいて、最初の洗濯の件から彼女は川田が好きだったのだと判明するラストは上手い。
一方エノケンのサイレント直系のパフォーマンスは抜群に面白く本作の見処、寅次郎節が唸りを上げている。川田の唄聴いて廊下で踊り出し「これはこの人の病気なんだから」と噂され、アパートの廊下でキャンデー販売始め、アチャコの懸賞を知って占いで部屋を崩壊させている。ひばりを軟禁しようと箱のなかに入れと云って手本を示して自らを軟禁してしまうギャグも素晴らしい。最後は唄聴かされ踊って窓から墜落している。彼はなんで松竹映画に出ているのだろう。
一方、堺駿二は面白いネタがなくて詰まらない。師弟共演の主役川田晴久は悪くはないが、脇役に華があり過ぎでいかにもバランスが悪かった。自転車で二人乗りのカート曳く人力車(輪タク)に乗ってひばりが唄っているのが愉しいが、ロケで面白いのはここぐらいで殆どがセットでの撮影。川田とひばりはバーの流しで「トンコ節」を唄っている。エロい唄で、大宅壮一がひばりを「声のストリップ」と批判したらしいがこんな処を指してだろうか。再見。
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