[コメント] 悲しき口笛(1949/日)
冒頭は桜木町ということなので、川は大岡川か。川岸にたむろする職にあふれた労働者や孤児たちの場面。この造型から実にいい。男の子みたいな美空ひばりにドリーで寄るショット。シケモクを拾おうとして少年に取られる原保美。ヒロイン−津島恵子の登場は、ビヤホールでクルリと回転運動をする所作がつけられている。これら主人公3人の登場はいずれも鮮やかだ。
次に画面造型上で書いておきたいのは、津島と父親−菅井一郎が住む掘っ立て小屋周辺の美術装置だ。これが広い原っぱの中にあり、近くにはレンガの崩れた建物の残骸のようなものも残っている。遠くには海も見えているのだと思う。原っぱに杭を立てた物干し場で津島が洗濯物を干すショットの伸びやかな佇まい。このロケーションが素晴らしい画面を生んでいる。また、小屋の中で、ひばりの純然たるミュージカル場面が挿入されるサービスもある。玉ねぎを剥きながら主題歌を唄いだし、次にバイオリンを指ではじくかっこうで「ブギにうかれて」を唄い次ぐのだが、この歌に合わせてダンスする津島も見ることができるのだ(津島は21歳でまず松竹大船の舞踊教師になり、その後、吉村公三郎によって女優として見出されたとウィキペディアにはある)。
その他の良い造型を列挙しておくと、冒頭近くのビヤホールの見せ方。川面にネオンサインを映す導入部もそうだが、店内を路地側の窓から見せるショットの肌理細かさ(徳大寺伸が原保美を連れて行く場面)、酔って道を歩く菅井一郎のチャップリンみたいな後ろ姿。レンガの瓦礫に座った美空ひばりによるフラッシュバックと、メチルで失明した菅井一郎による過去の栄光(バイオリニストとしてのコンサート)のフラッシュバック。終盤になって、相模湖のダムがロケ地として使われているのも良い画面を作る。ダムの画面への取り入れは、背景としての役割も大きいが、ダムの水流が炎へ接続するカッティング、といったイメージ処理にも驚かされる。そして、燕尾服姿のひばりが主題歌を唄うキャバレーの場面のクレーンを使った長回しショット。
ということで、現在、比較的容易に見ることができる家城巳代治の初期作という意味での本作の価値も高い。家城はこの後も晩年まで端正な作品を作り続けた監督であり、もっと正当な評価がなされるべき映画人だと思う。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・港湾労働者のリーダー格でハーモニカを吹く大坂志郎。
・ビヤガーデンのマスターは山路義人。
・キャバレーの支配人は清水一郎。
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