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[コメント] 笑いガス(1914/米)

チャップリンのフィルモグラフィーはこの1914年から始まるが、本作は6本目の監督作(「チャップリン自伝」による)。主な舞台は歯科医院内。あとは歯科医の自宅と路上が少し。
ゑぎ

 チャップリンは歯科助手ということのようだが、単なる掃除夫かとも思う(序盤は痰壺を片付けたり、モップで床掃除をする)。歯科医の留守の時に、チャップリンが患者を診察するのは、勝手にやっているだけの越権行為なのではないかと。また、タイトルは麻酔のためのガスを指す。ただし、このガスのからみでのコメディパートは実に期待外れ、というか、これは結果的にフェイクのようなタイトルになってしまっている。確かに麻酔ガスを吸った患者の笑いが止まらなくなる、というシーンもあるのだが、それは僅少で、笑い出す前の、チャップリンがトンカチで患者を何度も叩く部分の方が面白いのだ。

 このように、本作も実に暴力的な作品だ。チャップリンは登場間もなく、同僚の小男(小さい!)と耳を引っ張ったり、ビンタしたり、お尻を蹴り上げたりという喧嘩を始めるし、路上で得意のレンガ投げをし、キオスクみたいな露店の大男(これをマック・スウェインがやっている)や、背の高い歩行者(こちらは若きスリム・サマーヴィル)の顔面にぶつけて、歯をへし折り、患者を増やすのだ(いや、意図せず結果的にそうなるのだが)。あるいは、女好きのチャップリンは、路上で女性を追いかけ、スカートを引っ張って脱がせてしまう。この女性は歯科医の妻だった、というのを後で分からせる展開や、これにより、病院内と女性の(医者の)自宅とをクロスカッティングで見せる繋ぎを導くというのも、上手い構成と思った。

 尚、同一空間内でカットを割る、という演出はまだない。つまり、人物が別の空間(診察室から待合室へとか、院内から戸外へとか)に移動した際にカットを換えたり、塀の陰からレンガが投げられたらレンガの動きに合わせて、路上のカットに切り換わったり、といった繋ぎに終始する。なので、対面する人物を切り返すといったことは行われない。しかし、物を投げることでカットを切り替えるカッティングの連打は見応えがある。また、人物は基本フルショットで捉えられるが、女好きのチャップリンが、綺麗な女性患者を診察室に招き入れて、いじくりまわす場面では、鉗子みたな器具で女性の鼻を挟んで自分の方へ顔を向け、軽いキスをするショットがあり、こゝはウエストショットレベルの寄りのショットだ。矢張り、女性を強調して見せたいという欲望が表出しているというか、観客 の欲望を叶える演出だと思う。

(評価:★3)

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