[コメント] 舞台裏(1914/米)
で、そういったカッティングは皆無だった。換言すると、全てのカット割りが、映っている画面から画面外の空間に繋がれる、ということだ。
タイトルで分かる通り、劇場の世界を描いた映画だ。上の段落を補足するためにも、本作で切り取られる主な空間を列記しておこう。まず開巻は楽屋ロビーの右端のスペース。チャップリンと老いた道具係(?)の2人が映っている。チャップリンらの背景画面奥には右側へ上る階段があり、階段の上は屋外(路地裏)への楽屋口。なのでドア外、路地裏の宣伝看板のあるスペースが何度か映される。チャップリンらがいる楽屋ロビーは部屋の中央、部屋の左側が個別の空間として切り取られる。左端の空間のさらに左にはドアがあり演者の楽屋がある。前半はほゞこの地下の楽屋周辺を使ったドタバタが描かれる。後半は、公演中の上手舞台袖(舞台に向かって右側の舞台袖)、舞台、舞台の背景の裏側(上手舞台袖の奥から左へ入ったスペース)、そして客席が切り取られる。
上の段落に記した空間には全て人物が映っていて(空ショットなし)、クロスカッティングで繋がれるか、人物が別の空間に移動したり、小道具(例えば大きな宝箱のような鞄)が空間を越境したときに(例えば放り投げられたりしたとき)、カットが切り換わる。登場人物には、舞台の演者で、ミドルエイジの大柄な女優−フィリス・アレンとそのパートナーの痩せた男優、怪力男とそのパートナーの若い女優、グーグーシスターズという名前の姉妹のダンサーなんかがいる。尚、前半の楽屋口や楽屋周りの壁などに、看板や落書きなんかがいっぱいあって、沢山の情報(文字と絵)が溢れている、ということも書いておきたい。上述の演者の名前なども、これらの情報から我々観客も知ることができる。
この頃のチャップリンは、基本的に非常識で傍若無人な悪い人キャラを演じ、権力に弱い卑屈な部分と、かと思えば世の中の常識や規範を吹っ飛ばす痛快さを表裏一体で体現していることが常だと思うが、本作の彼もかなり悪い。開巻から「禁煙」と書かれた部屋で煙草を喫っており、相棒みたいな老人を虐めている。あるいは、怪力男のパートナーの若い女優にちょっかいを出す(この女優も案外チャップリンのことを憎からず思っており、イチャイチャする)。特に、老人の顔を蹴る演出はドキドキする。終盤では、裏方のチャップリンが舞台にも出現し、公演をメチャクチャにしてしまうのだが(放水!)、しかし、この終盤のカッティングによる加速度の付け方は見応えがある。
#客席の一列目にマック・セネット、二列目にはスリム・サマーヴィルがいる。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。