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[コメント] 桂春団治(1956/日)

冒頭は、仕出し屋か。手桶を持った娘が出てきて、水掛不動、法善寺を通って歩き、路地の奥、寄席の勝手口へ入るまでを移動撮影のワンカットで見せる。この娘は環三千世か。木村恵吾なので、ローアングルを期待するが、本作は、胸位置辺りのカットが多い。
ゑぎ

 屋内はローアングルだが、普通レベルで、床に穴を掘ってまでカメラを据えたようなカットは見当たらなかったと思う。

 冒頭から続く一夜の描写が濃い。借金の取り立てで、飲み屋の女中−淡島千景が来る。逃げる春団治−森繁久彌田中春男と女が、東京から帰ってきた浪曲師を避けている場面を交錯させる。春団治は京都の高座での代役の話に乗り、少し金が入る。淡島の勤める店。女中には大路三千緒もいる。森繁は借金を払うつもりで来るが、田中春男に会い、くだんの浪曲師との喧嘩に発展する。怪我をした森繁を介抱する淡島。その夜、二人は懇ろになる。と、こゝまでを一気呵成に見せるのだ。森繁の部屋での二人のやりとりがたまりません。ちなみに、この部屋は二階にあり、一階には車屋の田村楽太が住んでいる。近所のオバサンには千石規子がいる。

 淡島との新居は高津。しかし、すぐに森繁は帰って来なくなる。この家の表の路地と、その奥の道のセット(?)が風情のある良い風景だ。田村楽太は、春団治専属の車屋になっている。森繁が関係する女は、あと2人描かれる。一人は大店の後家さん−高峰三枝子。もう一人は京都の旅館の娘−八千草薫

 春団治の芸を嫌っていた(性に合わないと言っていた)高峰の後家さんが、結局抱かれるシーンがかなり印象深い良い演出だし、高峰は流石の貫禄でラストまでよく支えるが、この当時の八千草は、矢張り抜群に美しく、全ての出番が鮮やかだ。中でも、赤ちゃんが寝ているカットから、ラジオで春団治の高座の声が聞こえる中、八千草のアップで、カメラが後退移動するカットは凄絶だ。こゝは、特別な演出になっている。あるいは、八千草の元へ久しぶりに森繁が帰って来たシーンの修羅場も見事な場面だ。小さな下駄を水屋に投げる森繁。表にいた田村楽太もさすがにキレて、森繁を殴る。

 さて、普通に考えると、終盤の春団治臨終シーンが、一番の見どころ、ということになるだろう。医者は横山エンタツ。高峰と弟子たちが見守るが、遅れて、淡島や八千草も駈けつける。幽体離脱した森繁とお迎えに来た田村楽太とのやりとりが面白いのだが、私にはちょっと冗長な場面に思えた。

 尚、全編、春団治の高座での芸は、全く見せない。高座での姿は、座布団に座るカットがワンカットあるだけだ。しかし、淡島や八千草とのやりとりでの森繁のセリフは見事なものばかりで、森繁−春団治には満足できるのだ。「わいは、一人のものやない、大衆のもんや」と淡島に、「噺家が、普通やったらおもろない、変わってるからおもろい」という主旨のセリフを八千草に云うところが、春団治のキャラクターをよく表している。

(評価:★4)

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