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[コメント] チャップリンの画工(1914/米)

場面は3つのみ。酒場(10人ぐらいの酔客がたむろするカウンター周辺とスイングドアのある表)、チャップリンのアトリエ、公園の一角(左のベンチにチャップリンが座っている)の3つ。
ゑぎ

 こう書くと、場面がシリアルに移動すると誤解されそうなので補足する。劇中の現在時間軸は酒場で、アトリエと公園はチャップリンのフラッシュバックだ。プロットは酒場で始まり、チャップリンの回想と共にアトリエで御婦人をモデルに絵を描くシーンに移り、一度酒場に戻ってから、再度アトリエのシーン、今度は金持ちそうな髭の男性をモデルに絵を描く場面が来る。そして数年後、公園でこの髭の男性とその家族に遭遇するシーンを挿入して、また酒場に戻る。つまり、酒場は現在、アトリエは大過去で公園は小過去だ。

 本作も全編、ほゞ固定のフルショットレベル。正確には人物の動きに合わせて少しティルトするショットはあるが、パンや移動やズームはなし。同一空間、同一時間軸でカットを割ることもない。云わば額縁舞台のような古いサイレント映画の形式を踏襲している。換言すると、人物などの被写体が画面内を移動し、フレームアウトすると、カットが割られ、新たな空間でその被写体が映される。特に終盤の酒場で、人物が蹴られるとカットを切り換え、スイングドアのある店の表に転がる、といったカッティングで面白い場面を作っている。また、チャップリンの驚異的な運動神経で驚かせる場面もなく、酩酊した彼のでんぐり返しの反復と、執拗に酒場の床にチョークで絵を描こうとする姿で終わる帰結は悲哀に満ちている。コメディ以上にドラマへの志向がうかがえる初期作として興味深いが、映画的な妙味は少ない。

(評価:★2)

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