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[コメント] ヘヴン(2002/米=英=仏=伊=独)

冒頭の設定や、冒頭でのエピソードの積み重ね方はキェシロフスキとピェシェビッチをうかがわせる独特の雰囲気に溢れていたが、その後…(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前半の舞台が憲兵隊本部(イタリアの特別警察?)の中であり、「裁く/裁かれる」の構図を映し出すところを見るにつけ、確かにキェシロフスキの遺稿なんだろうなという気はした。

トム・ティクヴァの前作『ラン・ローラ・ラン』とキェシロフスキ作品が醸し出す雰囲気は一見似つかわしく感じないが、『ラン・ローラ・ラン』で強調される 主人公の眼の光。この人間を丹念に描写していこうとする姿勢において、ティクヴァとキェシロフスキ(とピェシェビッチの脚本)で共通する部分は案外多いのかもしれない。

とはいえ、別にキェシロフスキの遺稿を使うからといって、キェシロフスキの作風を忠実に再現することは無理だし、そもそも別の関心をもった人間がそんなことをすること自体無意味に感じる。実際、本作全体を通して見ると、脚本にクレジットされてはいないが、ティクヴァが自己の関心に沿って脚本を解釈しなおし、自分なりの味つけを加えていったことを感じさせる。後半の展開はキェシロフスキ作品とはかなり異なる位相に属するもので(大きな枠は遺稿通りなのかもしれないが)、そのこと自体は当然というか、そうあってしかるべきだと思う。

ただそれと本作への評価はまた別で、後半の二人の逃避行が深く掘り下げられていたかどうかなどは、かなり疑問。父親が姿形を変えた二人と密会したときの、女性の妙な間のとり方などはとても鼻につく演出だった。そこだけではなく、どうにも前半の「内」と後半の「外」との対比ばかりが印象に残り、二人の心情の移り変わりがほとんど見えてこなかったゆえに(都合のいいところで勝手に「愛」に変えてしまったようにも見える)、ラストで本当の意味での「外」に飛び出していく二人の姿がどうにもしらじらしく見えてしまう(ラストと冒頭のシーンとの繋げ方は好きだが…)。前半の重厚な設定に対抗するだけの、ストーリーテリングや演出に欠けていた感が拭えない。

ティクヴァの作品はこれでまだ二作観ただけにすぎないのだが、彼の魅力は定められた運命に抗おうとして闘う人間の姿を追っていこうとするところにあるのかと感じている。だからこそもっとその人間を描いてほしかった。そのあたりに関しては、自分の中でのキェシロフスキ作品への思いと結局はないまぜになってしまうのだが。(★2.5)

(評価:★2)

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