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[コメント] 風と女と旅鴉(1958/日)

おっ母さんの墓参りのために村八分の生まれ故郷へ舞い戻る錦之助。この秀逸な設定は焦点を結ばず、感情の行き場は霧散したまま。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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中村錦之助はどういう人だったのか。我々の情に訴えるのはただ「おっ母さんの墓参りのために」いやいや戻ったというだけだ。他は結局、彼は何もしていないように見える。ただのチンピラがチンピラのまま終わる。錦之助に死んだ息子を見る三國連太郎の心情も平板、ふたりが心を通じ合わせたと見えるラストの決闘も敵方の発砲による偶然に過ぎず、何の進展も示さない。粋がったチンピラのまま村人たちに何も訴えられず、再び村を去る錦之助。それがどうしたと云いたいのか、さっぱり不明である。何もできなかった青二才及びどんな事情か知らんが無茶苦茶冷たい村人たち、と云う外、感想が浮かばない。そこを突破する何かを見せてもらわねば、ドラマとは云えないのじゃないのか。

多情な女である長谷川裕見子の引掻き回しは面白いが、彼女を早々に袖にして丘さとみに云い寄る錦之助の行動にも脈絡が感じられない。不良だったお父つぁんの血がこうさせるんだぜコンチクショウ、という脈絡がなければ、やくざ物は盛り上がらないのではないのだろうか。殿山泰司が千両箱捨てて逃げる件も加藤嘉がさっさと切り殺される件も何かぎこちない。

撮影だけなら実にいいのだ。最後はドアップで終わる錦之助の最初の殺陣のローアングル長回しが最高だが、上記の錦之助・長谷川の絡みも、ワン・シーンで精緻に組み立てられるクライマックスの決闘もいい。木下の音楽もいいものだが、クライマックスに流れるマンボはあれ、この作品喜劇だったっけ、とタイトルをもう一度思い出させるもので、しかし喜劇ではなかろう、こうなるともうお手上げ。このホン、よく判らない。成沢昌茂は私には当たり外れが激し過ぎる。

(評価:★3)

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