[コメント] 日本暗殺秘録(1969/日)
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9つの暗殺事件のうち7つは暗殺時の断片で顔見世興行程度なのだが、これだけ物量で連鎖すると慣らされてしまって暗殺もアリだよねという感想を惹起するという効果を上げている。トップクレジットは知恵蔵。
「桜田門外の変」は美術が安物風で損している導入。降雪の背後の光景が書割風で降る雪がショボい。明治前後の暗殺は75件、100余名が死亡、暗殺禁止令が出て天皇も憂慮したがしかしなくならなかった。
「紀尾井坂の変」権力と大書され、大久保利通が並木のある街路で滅多斬りにされる。別に坂ではない。
「大隈重信暗殺未遂(遭難)事件」軟弱外交とあり、吉田輝雄の来島恒喜が外務省に爆弾放り込んでそのまま門前で喉突いて自殺する。借景の撮影で日活ポルノっぽい。
「星亨暗殺事件」汚職。「天下のためにカンゾクを殺す」と東京市役所会議室に暗殺者主観のキャメラが突撃する。
「安田善次郎暗殺事件」財閥。文太の朝日平吾が、千住の貧民街に労働スラムを建てたいと大磯の別荘で陳情、断られて速攻でドス抜いて刺し殺す。
「ギロチン社事件」はやや細かく描かれる。高橋長英の吉田大次郎。軍隊や警察は金持ちのもの、労働者は軍隊も警察も持っていないからテロという理屈。テロのための資金集めで銀行員襲って死刑。「死の懺悔」が朗読され、自ら選んだ道だと爽やかに処刑される。「それでも暗殺はなくならなかった、なぜか」とナレーション。「一人一殺テロ」
血盟団パートは千葉の裁判光景から始まり、千葉の回顧になり、捕まって文屋の砂塚に絡まれて終わる。カステラ屋(釜で焼いているショットがある)での経験が語られる。千葉が雇われた店主の小池朝雄は天皇御大典を当て込んで投資するが、警察の細かい審査(本署は良くても分署は駄目だというインネン)で認可を取れず倒産、警察に袖の下を入れれば良かったと知ったときは後の祭りだった。職人たちは連判状出して千葉と殴り合い。そして千葉には諸々の不幸を被る。印象的なのは恋人タミちゃん賀川雪絵との死別で、千葉が余りもの不幸の連打に茫然として縁側で夕陽みていてはっと気づいたら彼女は死んでいるのだった。一度冷やかしに覗いた知恵蔵の念仏を海に向かって唱える改心がドン詰まっていて感動的。
そして入信。水戸の大洗は日本を洗うなどと云われてり知恵蔵の井上日召は大迫力(本物は写真で見る限りヘラヘラしている)。「我日本の柱とならん」とか唱えると落雷。真面目な者がバカをみると千葉、お題目は大衆ものものだと知恵蔵。
三井も三菱もドル買いやって5億も儲けたのにと軍人の田宮二郎も悲憤慷慨、彼の存在が思想を具体的にする。田宮曰く「正義が生まれるには革命だよ」「もう実行の時代だ」「まず現状打破だ」「民衆を覚醒させるんだ」。もっともその心は「ロンドン軍縮条約は是非止めねばならない」というもので、左翼の戦争反対のための革命とは似て非なるもので、本作のギロチン社と血盟団を並列するスタンスは無理矢理だと思われもする。
千葉はワカメの行商に東京へ行くがまるで売れず。描写されるのはエロ看板、路上生活者と赤旗。私のラバさんと裸踊りの宴席に田宮が踏み込む。「革命は成功もまた死。政権交代ではない」。海軍の田宮はこのように陸軍の桜会を批判。「革命断交の時と思う」「自分自身も破壊する」「革命の捨て石になる」と語っていた知恵蔵は陸軍との関係で心労を受ける。無念にも事変で田宮は上海へ。
千葉は覚醒する。「革命はオレタチでやるんじゃない。オレがやるんだ」。千葉にピストル渡す知恵蔵。「できるだけ逃げるんだ」と泣く知恵蔵に驚かされる。井上蔵相の「百姓の干物はまだできたことはない」という発言がテロを後押ししている。
「相沢事件」は健さんが会議室に乱入して一言「天誅」で滅多切りの断片で、実験いフィルムめいていてもの凄い。
「二・二六事件」はモノクロ。当然のように登場する鶴田浩二の磯部浅一。奉勅命令はインチキだ、陛下の命令に従っているのだ、相打ちは革命として当然とまくしたて、自決すると泣く連中を叱り倒す。「自決は俺の目的ではない、俺は死なんぞ」。カラーになって射殺連発。「そして現代、暗殺を超えた思想は何か」と無茶が語られて幕。
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