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[コメント] 今日もまたかくてありなん(1959/日)

レフト寄りの作品が評価されたキノシタだが、旧軍人の心情に寄りそう作品は多く、本作はこれを主題においている。その想いは空回り気味で、ヒッチコックが憑依したような中村勘三郎は魅力に欠けるが、云いたいことは判る気がする。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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突撃命令出したのにひとり捕虜になり、「オメオメと生き永らえた、私は腑抜けですよ」。こういう旧軍人は多かったのだろう。彼は「チンピラが人権を主張する」と『ダーティハリー』みたいな状況に腹を立てているが、チンピラの三井弘次三國連太郎はそんなこと一言も云っておらず、ホンが噛み合っていない。噛み合わないから無茶なのだが、しかし中村のチンピラ立て籠もる雨の別荘への包丁持って突撃の長回しは即物的で素晴らしいものがある。

久我美子はとてもいい。なんで中村に引かれるのか、肝心な処が腑に落ちないのだが、しかし、なんて私の人生は苦しいのかと道端で嘆くショットは単体で心に迫るものがあった。さすがの名優、うまい前後が準備できなかった演出の手落ちなどものともしていない。最後に中村から貰った風鈴を自宅に吊るす久我は、なんという諦念にあることか。ダークで息の詰まる収束だった。

運転手の田村高廣が当たり屋被害にあう峠のシーンもよく撮れていて、車のライトがメルヴィルみたいだ。江の島周辺は荒地なのか何かの畑なんだろうか。辻堂駅。藤山陽子はリアリズム映画に登場は不向きなほど美人。タイトルは藤村の千曲川旅情の歌より。

(評価:★4)

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