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[コメント] 無宿(1974/日)

はじめて海を見たときの梶芽衣子の笑みはまるで童女のよう。感銘を受けた。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







東映任侠映画のパロディだ。高倉健がこれに積極的に参加している姿がユーモラスだ。煙草を逆さまにくわえて女に指摘されたり、大金掴んだら「外国へ行こうかな」なんて科白は東映では想像できない。

勝新太郎は任侠では池辺良の役処だが、その振る舞いは正反対だ。健さんが死に急ぐのを止めてばかりいるのだから。しかし、健さんとの関係がホモ・セクシャルを匂わせるのはしっかり踏襲されている。梶芽衣子が裸で泳ぎ出すのは、ふたりの関係に嫉妬したからだった。

制作者にとっても観客にとっても、死に急ぐ任侠映画は、大戦の特攻精神のトラウマないし脅迫反復だっただろう。これに全共闘世代が共感する図というのは、右も左もひっくるめた、この国のひとつの究極の姿だ。本作はこれを批評している。東宝の人気シリーズへの対向策という思惑を超えて、撮るべきものが撮られているという思いがする。

この対向策として取り入れられたのが、旧敵国アメリカの、ひとつのなれの果てであるニューシネマ仕様というのがまた興味深い。太平洋戦争の敵同士がそれぞれの次世代の価値観を披瀝しているように見える。ちと大袈裟ですが。

唐突なラストも、討ち入りとニューシネマ的唐突な全滅の混淆だと考えれば、これしかなかったと納得が行く。ただそれでも、任侠のパロディで通してほしかったという想いを持った。そのためには収束は明るくなければならなかったと思う。外国へ逃げる健さんを描いてほしかった。

斎藤映画は健在だった。毎度同じ感想だが、ギミックを連ねる撮影もホノボノ音楽も、70年代の尖ったテレビドラマを想起させて、個人的にとても懐かしい。健さんと同じく、梶芽衣子もキャリアの折り返しで撮られた映画。本作での表情の豊かさは傑出している。これまでのふて節は、本作で弾けるためのイミテーションじゃなかったのかと疑われるほどだ。ガニ股歩きがまた愛おしい。

(評価:★4)

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