[コメント] ロベレ将軍(1959/伊)
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ロッセリーニの監獄物であり、傑作と呼ばれる他の監獄物に負けず劣らない傑作。
女ッたらしで博打好きの詐欺師である主人公が偽のエメラルドを売りさばこうとするシークエンスでのラストで、昔の彼女がこれを買うと言うシーン(エメラルドが品定めの際テーブルを回るシーンも見逃せない)がある。彼女はそれが偽のエメラルドであるということを知って買うのだが、その理由は、主人公が彼女に人生の最高の時を与えてくれたから、ということだった。そういうなり泣き崩れる彼女。おそらく主人公は彼女との間でも嘘を吐いていただろう。しかし、嘘でもいいのだ。
その後、主人公は、既に銃殺されたレジスタンスの若者たちの叫びが刻まれた牢屋に入り、自殺したバンケリより尊敬の眼差しを受け、将軍の拷問に対する囚人たちの怒号を聞き、ロベレ夫人の真摯な決意に触れ、普通の銀行員であったファブリツィオの信念(この別室でのやり取りも見逃せないシーンの一つだ)に打たれ、レジスタンスの希望、ロベレ将軍として死ぬことを決意する。このロベレ将軍のイタリア万歳の叫びが、銃殺直前、どれだけ彼らの心を安んじたかを思うと、目頭が熱くなる。ただ、このシーンは引きで撮られており、この叫びが彼らにどう響いたかはスクリーン上ではわからない。しかしわからないからこそ、この叫びが観客にも響くともいえる。嘘でもいいわけである。
最後に、この作品を本当の傑作たらしめるのに重要な役割を担っているロッセリーニのドイツ人将校の描き方とハンネス・メッセマーについて述べよう。 ご覧になった方は分かるように、このロベレ将軍ではドイツ人将校の描き方のトーンが他のロッセリーニ作品とは少々異なる。すなわち、ハンネス・メッセマー演じるミュラー大佐は無防備都市やドイツ零年などに出てきた悪の権化のようなドイツ人将校ではないのである。 彼は拷問を嫌い、報復を嫌うのみならず、知性と気高さまで感じさせる。 また、ロベレ夫人を追い返すシーンでは、軍服のボタンを留めることで緊張感を、ネクタイを直すことで安堵感をコミカルに表現し、全体としてほのかにユーモラスなものになっている。ハンネス・メッセマーの名演が光る。 加えて、ラスト、主人公の決意を悟るやいなや、慌てふためき本名で呼びかけながら彼に駆け寄る姿や、その後の「私が間違えていた」との呟きにもその姿が現れている。 このような善悪を完全に二分しない描き方は、主張を曖昧にしてしまう面もあるが、話に深みを与える面が強く、今回のロベレ将軍でも後者の面で成功していたといえよう。
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