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[コメント] 鬼の棲む館(1969/日)

げに恐ろしき新珠無限地獄。谷崎版今昔物語の趣。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







エロエロの新珠と辛気くさい凸ちゃんに挟まれて苦しむ知恵の足りない勝新、という初期設定からして素晴らしい。谷崎的実存にとってそれは地獄の二乗だろう。これだけで腹一杯。佐藤慶の坊さん登場後もこれが巧みに展開され、短尺な大映映画に過不足なく収まった。

佐藤慶を狂死させた新珠を切り殺し最後に出家する勝新は、谷崎世代にはまだ残っていて、新藤の頃には死滅していた倫理観だろう。出家で終われば全ての新藤作品は大団円であり、新藤はこの禁じ手を余裕で愉しんでいるように見える。

新珠と凸ちゃんの年齢差は、勝新が凸ちゃんぐらいの中年という設定なのだろうか。本作最大の美点は(知らなかっただけかも知れないが)珍しくエロ下品な新珠。「聖は犬になったぞよ」の高笑いがはまりまくりで凄い。スナックに必ず一匹はいる妖怪ですな。大笑いした顔は栗原小巻に似ているという妙な発見があった。吹替えは当時の常道ゆえ許す。

室内劇ゆえ三隅・宮川の技は見えにくく、キャメラは新珠の黒目に当てたピンライトをいかに輝かせるかに腐心し続けているという印象。凸ちゃんはなぜこの頃大映作品に連投したのだろう。彼女の自伝には、本作の撮影時間の多くが酔いつぶれて撮影にこない勝新の待ち時間に費やされたとあるが、それは彼なりの役作りだったのかも知れないと観終えて思った。

(評価:★4)

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