[コメント] 11′09″01 セプテンバー11(2002/英=仏=ボスニア・ヘルツェゴビナ=エジプト=イスラエル=メキシコ=日=米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
これが日本だと『突入せよ! 「あさま山荘」事件』だとか『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』とか『KT』だとか、まあそれなりに時間が経過しないとフィクションであってもなかなか実現できないわけです。
JALの墜落事故だって『クライマーズ・ハイ』にせよ『沈まぬ太陽』にせよ、同じことですね。
アメリカだってベトナム戦争を総括するのに時間がかかった時代があるわけです。
『ディア・ハンター』とか『地獄の黙示録』はまだ初期だと思いますが、『プラトーン』あたりになるとかなり時間が経過していましたよね。
それが今回は『華氏911』にしろこの映画にしろ、すばやく自国批判を始めていますね。これはすごいことだと思います。なかなかできそうでできないですね。現職の大統領を批判するってどうしてどうして難しいことでしょうね。
これだけ著名な映画監督が並びますとなかなか壮観の印象ですが、やはり個人的には、この映画を見る前に『アモーレス・ペロス』を見ていたこともあってアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの作品はとても印象的でした。
ずっと暗い画面が写されて、まったく映像が出てきません。そして陰鬱な音楽にあわせて後半になってようやくビルから人が飛び降りるシーンがフラッシュバックされるわけです。
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥというと、全く違うお話がひとつの事故とか事件をきっかけにひとつにつながる展開を得意としていますが、この作品だけはワンサイド。一方的ですね。
わずか11分の中で何を表現するかは、その監督の人生観などが大きく左右するんだと思いますが、ここで彼は沈黙を示そうとしていますね。沈黙という恐怖。とても勇気がいる作品だったと思います。
「神の光は我々に道を示すのか。それとも目をくらませるのか。」
これこそ盲目の中にいるアメリカを示す一言でしょうね。恐れ入りました。
ショーン・ペンの作品にアーネスト・ボーグナインが出てきたのも良かった。『マーティ』で一気に有名になって、我々の世代だと『ポセイドン・アドベンチャー』とか『ウイラード』などの脇役ぶりが印象的です。脇役なのになぜか印象が強い。
そんな彼が年老いて、一人孤独で生きる妻を亡くした老人を演じています。
そして陽のあたらないアパートで咲かない花を見て嘆いていると、ある日その花がスーーっと息を吹き返します。そんな彼が喜ぶ姿をカメラが窓の外からのぞいているんです。するとそのアパートの壁に大きなビルの影が崩れてゆくシーンが映し出されるんですね。見事な演出。
でもでもやっぱり、日本人として今村昌平さんの作品がとてもよかった。いかにも今村昌平さんらしい語り口。現実にあり得ないお話でも最後に決めます。
戦争で虐待されて蛇になって家に帰ってきた男のお話。
貿易センタービルのことなど、どこにも出てこないこのお話の主題は、直筆の文字で力強く語る緒方拳さんの筆によって見事に最後、締め付けましたね。
「聖戦なんてありはしない!」
この一言で、憎むことうらむこと、そして戦争に駆り出されることの意味を言い尽くしていますよね。見事ですね。
この映画を何度も何度も、ラウンドゼロで上映するのが良いのではないでしょうかね。道行く人がこの短編を立ち止まって見かけるだけでウォール街の悪魔が消え去るのではないでしょうか。
恐れ入りました。
(2011/01/05 自宅)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。