[コメント] 無宿人別帳(1963/日)
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「享和二年九月、佐渡金銀山水替人足として使役のため、江戸無宿者62名、差し遣わし候」とナレ。巨大な鳥籠のような籠に縄で縛られたうえで入れられひとりにつき四名で棒に担がれ運搬。籠のまま並べられて一泊。船で渡って佐渡、白い岩山迫るサッカー場ほどの平地、入口には見張りの櫓、番屋というのか宿舎の小屋が囲み、生首が見せしめに並べられている。
半裸で岩山の坑内で、岩壁から噴出して流れ落ち溜まった地下水を盥で救う。掬った水は樽に入れ、樽は長々と繋がれ、ハンドルをぐるぐる回しているのは水を坑外へ圧送するのだろう。これが水替人足の仕事の由で、掘削や採掘はしていない。水替人足は金銀山のなかでも最底辺の職種だった由。無宿とは戸籍に載っていない人の意で、奉行所の西村晃はお前ら殺しても別にいいもんねと訓示して、作業の見張りは挨拶代わりにやたら罵声を飛ばし棒で殴り続ける。そんな佐渡金山。
奉行田村高廣佐渡金山職は、金の収穫が下落していると就任挨拶(佐渡藩はまるで登場せず奉行所が直轄していると描かれる)。彼は職務に生真面目で熱心だが、出世企む長門裕之のよこした左幸子の色仕掛けにヨロメキ、加賀屋小堀明男の不正糾さんと張り切るが、部下の「蛇の執念」二本柳寛は利権から反対。二本松の妻岡田茉莉子は水替人足の元御家人の佐田啓二の元カノ。中村翫右衛門と三國連太郎は水替から見込まれて監視役。
落盤事故があるが、二本柳は利権保護と恋敵佐田殺害の腹で、毒気充満して落盤続発の現場復旧のお沙汰。島の生活48年の翫右衛門が泣いて抗議するが受け入れられない。さらに小堀は高廣を失脚させようと、三國に島抜けを唆してカネ渡し、三國はやる気になって人夫を勧誘。実に清張らしい下っ端役人の悲哀があった。山分けだとばら撒く金貨は佐渡金山製に違いないというイロニー。
三國先導で全員脱走して、山道を三班に別れて見張りのない北の港を目指すも、三國の班しか到着しない(他は三國が嘘ついて捕えさせている)し、見張られているし、七人いるのに小舟一艘で三人しか乗れないし。三國はうち四人を食糧補給に出向かせて捕えさせ、「人間って奴あ、ドン詰まりに来たら自分のことしか考えていられないんだよ」と本音漏らして翫右衛門も崖底に落とした処へ米俵担いだ四人が戻り、三國は佐田に斬られる。この崖上の決闘でワンショット海の下から見上げる超ロングが松竹京都ヌーヴェルヴァーグっぽくてとても格好いい。
興奮したのか佐田はひと暴れを語り皆の衆も興奮、「大悪党の往生際のいいところ見せてやらあ」。冒頭、伴淳が死期を悟って見栄張った偽り大罪告白と呼応して、無宿たちの詰まらない人生を描いて見せる。一行は牢屋を開け放ち奉行所に放火、最後は見事に豪華登場人物総倒れ。小役人長門が死に際に謀反人全員処刑と報告を諳んじるなか、翫右衛門の娘岩本美代(新人)と津川雅彦は小舟で新潟に向かうのだった。このラストショットの、大海原に行く小舟のショットも素晴らしく印象的。
ニヒルな総崩れは広義の無茶なプロレタリアート革命であり時代を表しているのだろう。津川が岩本を強姦する長いショットも格好よく撮れているが、ここでも強姦から愛という時代のクリシェが使われている。共演陣はやたら豪華、宮口精二の浪人は相変わらず格好いいし、渥美清の卑屈がハマっている。パンフォーカス連発の撮影はクロサワ並に素晴らしい。
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