[コメント] 失踪(1993/米)
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なんだか知っているような話が、見たことも忘れていた監督のセルフリメイク作品だったという衝撃というか脱力。元祖を観た時の「気づいたら●●の中だった」という、あの場面を観た時の強烈な既視体験の謎が解けたのだった(笑)。冒頭のトンネルやドライブインのロケーションなど、本作はオリジナルとかなり同じような描写をしているのに、その場面を観るまで「実はリメイク作品を既に知っている」ことに気づかないということは、逆に言えば「気づいたら●●」という場面がそれだけインパクトが強いということで、とにもかくにもこの物語が結局はこのワンアイデアで成り立っているということだ。
<元祖とリメイクの比較で気づいたこと> プロットが成立すればいいのだから、構図とかもっと違うように撮ってもいいのに、ここまで似せているというのは何か監督のこだわりがあるのだろうか? それはいいとして、では、そこまで似せているなら、どうして今回もこれをやらなかったのか、疑問に思うシーンがある。それは彼女が「(運転手の)彼氏のためにコーラ、自分のためにビールを買ってくる」ことを、事前に彼氏に宣言していく伏線の回収。彼女が連れ去られる時に、手に持っていたコーラとビールが駐車場に落ちてしまう。この時点で彼女が失踪したのかどうかは定かではなく、彼氏は不条理な不安にさいなまれている状況で、コーラとビールという組み合わせで駐車場に落ちているのだ。そこに、探し回っている彼氏がやって来る、二つの缶が不自然に落ちているという手掛かりに手が届くと思いきや、彼氏が到着する直前に、別の車がビールかコーラどっちか忘れたが、「ひとつだけ」踏みつけて破裂させてしまう。残ったのは一つの落ちている缶というありふれた景色。彼氏はそれが彼女が落としたものであるということに気づくことなく、あろうことかそれを焦燥感から蹴飛してしまうのだ。唯一の彼女の痕跡なのに! もし彼があと少しだけ早くそこに来ていれば、二つの落ちた缶を見つけたわけで、彼女の失踪がほぼ事実認定され、少なくとも不条理な心情は解消されただろう。どうってことのない小道具でサスペンスを盛り上げる素晴らしいアイデアなのに、こともあろうに本作では拉致した犯人が逃走する際、あっさり自分で缶を一つだけ踏み潰してしまう。彼氏が落ちた二つの缶を発見できるかどうかという可能性には触れてこないのである。もしリメイクを別の監督が撮ったとしたら、「落ちた二つの缶のうち一つが踏み潰される」というシナリオの読み込みが足りないとNGを出すべきところである。それを自分がやってしまうというのは、監督が自分で作ったオリジナルのサスペンスの価値に自分で気づいていないのだろうか それともバカな編集者がそうしてしまったのか?
『ザ・バニシング〜消失〜』のコメントにも書いたが、行方不明というサスペンスには独特の不安がある。それはいるはずの人がいないという「不条理性」だろう。大抵の行方不明ものは、やがて真相に近づくと不条理が解消されて、サスペンスの主力のネタがなくなってしまうから、後半は脱出劇などの別のサスペンスを用意する必要にかられる。まさにこのリメイク版がそれだ。つまり「気づいたら●●の中」で終わらせられれば不条理性を確保したまま物語を閉じられるのに、ハリウッド的にNGだからなんだろう。監督からすればリメイク版はすでに不条理路線ではないため、先の缶の場面もああなったのかも。
本来ならオリジナルの肝を損なった点でダメなのだろうが、脱出劇が割といい出来だったので4点に。
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