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[コメント] 恋のページェント(1934/米)

これも恐るべき画面の映画だ。シーン間の充実度には差があるが、なんと云ってもロシア宮廷の美術は凄い。こんなの見たことない。椅子の背もたれとか肘掛、或いは蝋燭台などの人型彫刻がグロテスクかつ厭世・退廃的で異様な造型なのだ。
ゑぎ

 また、これら美術も相まって宮殿のセットの閉所感が尋常じゃなく、息詰まるプロットを画面として造型する。そしてディートリッヒの身体にまとわりつくベールやレースといった生地や馬小屋の藁だとかも含めて、「画面の触感を見る」という快楽の溢れた映画でもある。

 エカテリーナを演じるディートリッヒは登場から前半までアホみたいに初々しい演技をしているのだが、後半に至って実にふてぶてしい女に変化する。一方、皇帝ピュートルのサム・ジャフェも最初は白痴かと思ったが、後半残忍で狡猾な男になる。また、ディートリッヒの恋のお相手役と云っていいジョン・ロッジも含めて、全ての登場人物は癖のある、常識的な感覚で云えば唾棄すべき人物として描かれており、観客は誰にも感情移入することができない。そういった意味での共感性は拒否されている。お話も梗概を記せばわずか数行で足りそうなもので、映画に起伏のとんだ物語を求める観客にとってはストーリが良くない、ということになるだろう。しかし映画には感情移入できるキャラクターや落ち着きのいいストーリなど全く不要だ。反物語への志向、というと大げさな言葉遣いだが、何はともあれ映画は画面(と音)である、という確信を得ることができる。

(評価:★4)

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