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[コメント] 快感旅行(1972/日)

瀬川昌治の松竹旅行シリーズ第11作でこれが最終作。上野駅ホーム及び出発前の列車内シーンから始まる。列車は金沢行き寝台急行(北陸2号と呼ばれている)。修学旅行の女子高生たちが山本リンダの「ねらいうち」を唄う。
ゑぎ

 引率の先生で園佳也子。この冒頭シーンの女子高生たちの動かし方がまず良い演出と思う。フランキー堺はいつもの車掌役でその部下の乗員に森田健作がおり2人は兄弟。このあたりは本シリーズのよくあるパターンだ。ヒロインは2人おり、一人が倍賞美津子でシリーズ初お目見えだが、これがもう1作目から3作目の倍賞千恵子と同じような役柄、すなわち、フランキーに惚れこんでいて、どれだけつれなくされても追いかけるという役。そしてもう一人のヒロインが光本幸子。これもシリーズ初期作で倍賞千恵子と対照的な、温和で聡明なヒロインとして設定されていた新珠三千代野添ひとみなどのキャラを踏襲していると云っていいだろう。本作の光本は、フランキーが列車内で知り合った金沢の旅館の女将−ミヤコ蝶々の孫娘。当然ながらフランキーが惚れてしまうことになる役だ。

 というワケで本作は金沢、能登、山代温泉(加賀)など北陸を主な舞台とする。例によって様々な景勝地や伝統芸能をキャプション入りで見せてくれる観光映画だ。また本作の特徴として、フランキーも蝶々さんも(孫娘の光本も)詩歌を好むという趣向があり、度々これが挿まれてアクセントになる。序盤の列車の中でフランキーが弁当(倍賞が作って持ってきたもの)を食べながら、食材を題材に即興の詩を詠むが、全部、車内放送されていた、という東映列車シリーズから見られるコメディ演出がある。彼の雅号は「不乱木」だ。

 さて、全体に勿論ずっとニヤケながら見ることのできる上質の喜劇だが、実は大笑できる部分はほゞない。そんな中で、コメディ演出として特筆すべきは、矢張りフランキーと伴淳三郎が絡むシーンだろう。本作の伴淳は倍賞の父親役だ。特に、フランキーが光本の婿になるため、山代ビューホテル(蝶々の金沢の旅館の系列ホテルという)で、3日間の厳しい修行をするシーケンス。なぜか倍賞が仲居になってホテルにおり、伴淳も客で来る。この夜の酔っ払った3人のシーンが強烈だ。フランキーに弓矢を射かける伴淳。刀で斬りつける倍賞。この後、酔っぱらったフランキーが、光本とも倍賞とも同衾してしまう、というのが本作タイトルを示していると受け取っていいだろう。ちなみに、翌朝、布団の中のフランキーが蝶々さんに起こされても、すぐには起き上がれないという場面があり、蝶々さんは「元気な男衆は、朝すぐに布団から出られない」と納得し「早よ醒まし!」と云う。

 そしてラストは金沢から上野への列車内。詳述は避けるが、伴淳と倍賞の親娘にフランキーが切符拝見と来て、この3人が皆泣き出してしまうという帰結なのだが、この様子を見ながら最初は怪訝な表情をしているが、次第に訳も分からない癖にもらい泣きする乗客として佐山俊二がこゝだけワンポイントで登場する。こういった理屈を越えたコメディシーンの造型こそが瀬川昌治だと思う。さらにこの後の、シリーズの最後の最後も映画の幸福を感じさせてくれるエンディングだ。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・冒頭の列車内。世界バストヒップコンテスト参加者の添乗員でケーシー高峰。通訳をしてくれる藤巻潤。彼は東博(東京国立博物館)の研究者。食堂車のウェイトレスで森田の彼女は岩崎和子

・ミヤコ蝶々の娘(光本の母親)は森明子。旅館の番頭の立原博

・金沢駅の偉いさんは生井健夫。車掌仲間には城戸卓がいる。

・能登へ向かう列車の食堂車通路で朱里エイコが一曲唄うゲスト出演。

・能登旅行の「白ゆり旅行会」のメンバで、水木涼子谷よしのが並んで映る。

(評価:★3)

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